第68章 諦め
3人になった病室で、泰葉はあの日に起きたことを話した。
それから、杏寿郎からの文も照らし合わせてもらいながら。
両親は真剣に話を聞きながら、事の流れを理解していった。
花「うん、話は理解したわ。煉獄家の手紙と杏寿郎くんが貴女に届けた文。そして泰葉の話。」
智「…お父さんには話しづらかっただろうに、ありがとう。」
「ううん、聞いてくれてありがとう。
…それで、私は…」
花「杏寿郎くんの側に居るのは、ふさわしく無いって言うのね?」
花枝の言葉にコクンと頷く。
その様子に、両親は顔を見合わせた。
智「…泰葉。お父さんとお母さんは泰葉の幸せを1番に考えている。
それは、結婚して欲しいって訳じゃ無い。
結婚しない方が幸せだって言うのなら、それだって構わない。」
智幸の目は優しさの中に、泰葉の本心を探る様な鋭さもあった。
智「もし、このまま婚約を破棄したいと言うのなら、明日一緒に煉獄家にお詫びをしに行こう。」
「……っ!」
智「こちらの都合で婚約を破棄させてもらうんだ。ちゃんとケジメはつけないと。」
「…は、い。」
泰葉はキュッと唇を噛み締めた。
急に、1番気が向かない展開が迫る。
(もう少し、時間…欲しかったな…)
そうは思うが、泰葉にとってこれは変えられぬ決断であった為、早かれ遅かれ結果は同じなのだろうと腹を括ることにした。
智「…それじゃ、お父さん達は行くよ。宿をとってあるから、明日の朝迎えにくる。」
花「一晩…考えなさい。自分の心と。」
そう告げて、智幸と花枝は病室を出ていった。
「自分の心と…」
泰葉は、由梨恵との会話と、両親の言葉で気付かされた。
不安だったり、分からないことがあったら何でも聞く、何でも話す。
自分から言っていたのに、今回それを拒絶したのは泰葉の方だった。
(杏寿郎さんは、話そうとしてくれたのに…)
明日、時間をもらい、話し合おう。
そうして、この泰葉の中にある負の歯車を止められるかもしれない。
そうして、泰葉は明日を迎えることにした。