第68章 諦め
由「う、えっ?どうして…?私たちを助けてくれた英雄じゃない!その人との婚約を破棄するって…えっ?」
「…だからよ。」
泰葉は由梨恵に今回の気持ちを伝えた。
皆の英雄的存在の彼。
その隣に立つのは自分ではない。
最大の理由は杏寿郎への罪悪感である事。
由梨恵はそれを真剣な顔で聞いている。
いつの間にか涙も引いて、目は腫れているがいつもの可愛らしい顔に戻りつつあった。
由「…確かにね。あんなことされて飄々とはしていられないわよね。」
由梨恵は話を聞き終わると、確かにと頷いた。
由「でも、それって泰葉だけが一方的に思っていることなんじゃない?杏寿郎さんとはちゃんと話したの?」
「いや…なんか、合わせる顔がなくて…」
泰葉の言葉にはぁ…とため息をつく由梨恵。
由「泰葉はそういう所があるわ。
1人で考えて1人で抱え込む。相手の気持ちを知る為には、相手と話さないと何も始まらないのよ。」
「相手と…話す…」
泰葉と杏寿郎が約束したことだ。
不安だったり、分からないことが有れば話そうと。
由「あの男達は本当に許せない。でもね、好き好んであの男達を誘惑した訳じゃないでしょう?
私は泰葉が汚れた…穢れたなんて思ってない。
杏寿郎さんだって、あんな状態の泰葉を一生懸命助けてくれた。」
由「愛がなければ、そこまでしないわよ。」
由梨恵の微笑みはとても優しく、温かいものだった。
泰葉は自然と笑顔になり、目に溜まった涙を拭う。
「由梨恵…ありが…」
コンコン!!
泰葉が言いかけたところに、勢いよく扉を叩く音。
ア「お話中失礼します!泰葉さん、ご両親が…!!」
「えっ、両親⁉︎」
驚きのあまり泰葉の声が大きくなる。
由梨恵も立ち上がり、泰葉と顔を見合わせた。
すると、扉も勢い良く開かれ、泰葉の両親が雪崩れる様に入ってきた。
花「泰葉⁉︎大丈夫なの⁉︎」
智「怪我はないのか⁉︎大丈夫なのか⁉︎」
由梨恵がいようと、アオイが目を丸くして見ていようと、お構いなしの両親は泰葉を揉みくちゃにする。