第68章 諦め
要が文を一生懸命持ってきてくれたのは、断れない。
「杏寿郎さんはそれを知ってて、要に頼んでるのね…。」
杏寿郎が文で伝えてくれる、「愛してる」とはどの様な面持ちで言っているのか。
本心か、同情か…。
泰葉は、はぁ…と息を吐いて寝台に座る。
しかし、正直なところこの毎晩の文を楽しみにしてしまっている自分がいるのも、確かだった。
聞く耳を持たずな泰葉の為に、杏寿郎が一生懸命教えてくれる。
杏寿郎もしのぶと同じ様に、危ないところだったが、あそこに居た女性たちは誰も男に行為自体はされていないと言う。
その言葉に、安堵の涙を流した。
自分の身もだが、由梨恵をはじめとする女性達の貞操は守られた。
しかし、頑固な泰葉は由緒正しき煉獄家の長男である杏寿郎の嫁たるもの、こんな穢れた自分ではいけないと強く思い込んでいる。
なんの力もない、美しくもない。
未遂だが、男にたくさんの痕を付けられた自分など…。
(両親には手紙は届いたかしら…。
驚いてるわよね…、怒ってるかな…。)
泰葉は両親に手紙を出している。
その内容は
「不貞を働いてしまった。婚約を破棄したい。」
というもの。
唐突すぎるとも思ったが、文でうまく説明できる気もしない。
とりあえず要点だけを伝え、詳しい話をしに来週末帰るとだけ加えた。
その前に、一度は煉獄家に行って頭を下げねばならない。
それにも気が重かった。
(とりあえず、1週間…。1週間は静かに過ごしてその後考えましょう…。)
しかし、泰葉が危惧していた嵐は、意外にも早く到着してしまう。
そんなことを知る由もない泰葉は、静かに眠りについていった。