第68章 諦め
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蝶屋敷に運ばれてから1週間が過ぎた。
泰葉の身体はなんともないが、体内に入れたものを抜くのには約2週間ほどかかるらしい。
その為後1週間はここにいなければならない。
しのぶは泰葉にいつも通り接してくれていた。
怒らせてしまった翌日はビクビクしたが、きっと彼女は泰葉が結婚を辞める事に対して、考え直していると思っているのかもしれない。
(ごめん、しのぶさん。考えを直す気はないわ…。)
決して愛していない訳でも、嫌いになった訳でもない。
理由は一つで、杏寿郎への罪悪感だ。
こんな後ろめたさを抱えたまま、眩しく笑う杏寿郎の隣になど居られるはずがない。
杏寿郎はあの日から、会いに来る事はほぼ無くなった。
来たとしても面会を断り続けた。
アオイやカナヲはそんな風にしていて大丈夫なのかと、心配してくれていたが、会ってしまえば心が靡いてしまう。
これは杏寿郎のため、自分のためと断った。
しかし。
『カァー…』
毎日要が訪れる様になった。
脚には文を結ばれて。
「要、ごめんね。毎日ありがとう。
でも、今日も返事はないの。帰って良いわよ。」
要の頭を撫でてやると、うっとりした様な顔をして、夜空に羽ばたいて行った。
心なしか多めに旋回して帰るのは、要なりに何かを伝えてくれているのだろうか。
杏寿郎からの文には、あの日の出来事が杏寿郎目線で書かれていた。
女性誘拐事件に関与していたのが、坂本和誓という男。
働く女性が攫われたのは、その方が奉仕の心が身についているから。
そしてその女性たちに、和誓の元で奉仕をさせるつもりだった様だ。
身の回りの世話は勿論、性的な要求にも応えられる様にしたかった男達は、抵抗されない様にと媚薬を使い男達が襲うつもりだったらしい。
"働く女性が攫われる" との事だった為、働いていなかった泰葉は大丈夫だと、胡座をかいていた。申し訳ない。
そうも書かれていて、決して杏寿郎が悪いのではないと、泰葉は胸を痛めた。
胸元の痕は男達が付けたものでもあるが、自分が後から上塗りをしたともあった。
そして、最後にいつも
「愛している。」
そう書かれていた。