第68章 諦め
「…っ!!!」
泰葉はハッと目を開ける。
さっきとは違った暗い部屋。
小さな灯りでぼんやりとしている。
消毒のような…この匂い…。
「蝶…屋敷…?」
(どうしてここにいるんだろう…)
腕を見ると点滴が付いていた。
(わたし…怪我、したんだっけ?)
泰葉は何故ここにいるのかを考えるよりも先に、ほっと胸を撫で下ろす。
(良かった、さっきのは夢だ。杏寿郎さんがそんな事を言うはずがない。自分に自信がないのが、あんな夢を見せたのだ。)
安心して、体をゆっくりと起こす。
腕などを見ると大した怪我はしていないようだ。
腹や背中も痛む様子はない。
「怪我じゃ…ないのかな?」
泰葉は自分の格好が浴衣であるのに気づく。
蝶屋敷ならば、入院着があるのに。
浴衣の合わせが少し乱れていたので、一度緩めて合わせ直そうとした、その時。
自分の目には信じられないものが飛び込んできた。
胸元に見える無数の赤い斑点。
一瞬病気かと思ったが、よく見ると内出血が起きたようなもの。
「な、に…これ…」
これはどうして自分の身体に存在しているのか、そう思っていた時、一気に記憶が襲いくる。
暗い部屋に転がった女性達。
発狂し出す祐一。
自分に飲ませた赤い小瓶。
ニヤニヤと笑う男の顔。
あの夢に出てきた男は、この男だったのだと結びつく。
あの男に舐められ、口付けられ…
すごく嫌だったのに、杏寿郎しか知らないはずの声を上げてしまった…。
「あ、あ…わた…し…」
あれは夢のようで夢じゃない。
私は汚された…
穢された…
「い、いやぁああああ!!!!」
泰葉は悲鳴に近い声を上げていた。