第68章 諦め
広い和室。
ここは…?
『まぁ、お綺麗ですわ。』
女性が私を見てニコニコとしている。
『ご主人も惚れ惚れなさるわね。
さ、襖を開けますよ。にっこり笑ってくださいね。』
自分の格好を見ると、真っ白な着物。
赤の差しが入ったこれは白無垢だ。
あぁ…
今日は祝言の日か。
この襖の向こうには杏寿郎さんがいる。
私はこの日をついに迎えるんだ…。
口角を上げて、杏寿郎との面会に備える。
あ、あれ…?
口角が上手く上がらない…。
こんな嬉しい日、笑顔が自然と溢れたっておかしくないのに。
嬉しくないの?
嫌なの?
そんなはずない。
あんなに素敵で、優しくて。
私を大切にしてくれる。
真っ直ぐで、熱い心の杏寿郎さんが
大好きなのに。
どうして笑えないの?
しかし、待たずして開かれる襖。
あぁ、笑って…
ほら、杏寿郎さんが困っちゃう…
『お前は俺に犯されて傷モンだ。』
ハッと顔を上げると、襖の向こうにいるのは知らない男。
その男が私の手首を掴む。
「やっ、触らないで!!杏寿郎さん!杏寿郎さん!!」
男はニヤニヤと笑いながら、掴む力を強めた。
私は痛くて顔が歪む。
『他の男に穢された女なんか、誰が嫁にしたい?
お前なんか願い下げだとよ。』
「杏寿郎さんが…そんなこと…」
『なら、その男はここにいるか?好きな女が奪られそうなのに、助けにも来ねぇ。』
『お前は、その程度なんだよ。』
『傷モンが。』