第67章 後悔 ❇︎
祐一は泰葉を自分の妻だと言い張る目の前の男に、苛立ちを表す。
それが例え杏寿郎という、力が天と地の差のある人物だとしても。
祐「貴様のような男に泰葉を渡して堪るか!!
俺は前回も泰葉をモノにできなかった…!!
邪魔が入ったからだ!!今度も邪魔をするな!!」
杏「…以前にも邪魔?悪いが俺は君には覚えはない。」
杏寿郎はなんの話かと眉を寄せる。
しかし、頭の回転が速く、勘のいい杏寿郎は祐一の話に思い当たる節を見つける。
杏「…まさか。」
そう口にした時、その節を確定とさせる名が聞こえた。
和「松本ぉ!そいつをぶっ殺せぇ!!」
よろよろと立ち上がり叫ぶ和誓。
その顔は鼻の骨が折れてひん曲がり、前歯も数本失くしていた。
それでも威勢よくいられるのは、親分としての意地か。
杏寿郎は和誓が目の前の男の名を叫んでくれたおかげで、全てが合致する。
この男の前回とは、寝込みに泰葉を攫い、遊郭に売り飛ばした時のこと。邪魔とは天元のことで、それがなかったならば…。
杏「貴様…松本祐一か…!!」
祐「!!」
祐一の名を口にした時、ピクリと肩が動いたのを見逃さない。
自分の勘と目の前の男が同一人物だと確信すれば、そこからの行動は早い。
杏寿郎と距離があった祐一の目の前には怒りに燃える鋭い瞳があった。
当時、任務に出ていた杏寿郎は救出にあたった天元、祐一を懲らしめた槇寿郎、千寿郎から報告として話を聞いた。
まだ想いを内に秘めていた頃だったが、腑が煮え繰り返る程の憤りを覚えた。
その男がまた、泰葉を辛い目に遭わせたとは…。
杏「炎の呼吸 参ノ型 気炎…」
今の杏寿郎には憤りと殺意が湧き上がっている。
正直、許されるならばこの手で鬼の様に頸を跳ね飛ばしてやりたい。
…でも、そうしてしまったならば?
悔しくてもこの男を殺めて仕舞えば、自分も犯罪者。
人殺しだ。
そうなれば泰葉と一緒にいることもできないし
泰葉を悲しませてしまう。