第66章 消失
祐一が泰葉の手首の拘束を解いていく。
「あの…足も解いてくれませんか?」
祐「はは、面白いことを言うね。足はだめだよ。逃げちゃうだろう?逃げてもすぐに捕まるけれどね。」
(やっぱり足はダメか…。でも手が解放されれば。)
この男を捻り上げ、自分で足の拘束を解けばいい。
鬼のようなこの男達を退治するのは自分しかいない。
しゅる…と音を立てて解放された。
(とりあえず手刀で…!!)
泰葉が祐一の頸を狙って手刀を振り下ろす。
が。
祐「無駄なことはお辞めよ。」
パシッと泰葉の手首を掴んでいる祐一。
「な、ん…で…」
泰葉の手刀を、普通の人間なら受け止められない筈。
泰葉はもう片方の手で脇腹を殴る。
祐「痛いなぁ、泰葉はそんなに凶暴だったのかい?なら、躾をしないとね。」
そう言って笑いながら脇腹を摩る。
普通なら、この男の肋骨など折れている筈なのに、祐一は余裕な表情だ。
「どうして…平気なの…」
祐「女の子の攻撃を耐えられないほどの男に見えるかい?それは困ったなぁ。」
泰葉は頭が真っ白になった。
——戦闘能力はどうしたのだろう。
——ここの女性を助けるにはどうしたらいいのだろう。
——私には何ができるのだろう…。
その間に祐一は泰葉の衣服を取り払っていった。
祐「ん?虫刺され…いや…」
段々と険しい表情へと変わっていく祐一。
その視線の先は泰葉の項と背中の境。
虫刺されのような赤い花。
それは所有印。
祐「泰葉…。この赤い印はどこの男につけられた?君は綺麗なままだったんじゃなかったのか?」
影を帯びた静かで低い声。
だが、泰葉には祐一の声で怯むことはなく、むしろ"赤い印がついている"ということしか耳に入らなかった。
(赤い印…⁉︎ 今朝杏寿郎さんが付けたものだわ。あの後に口づけをしている筈…それでもその印は残っている…。)
そして泰葉は気づく。
これまでの体調の異変
あの夢の理由…。
———私の能力は【消失】している。———
泰葉の目から、涙が溢れた…。