第66章 消失
「…ん…」
泰葉は自分の名前を呼んだ男を見上げた。
目の前で立ち止まった男の顔が、ニヤリと口角をあげる。
『やっぱり泰葉だったね。特徴を聞いた時、そうなんじゃないかなって思ってたんだ。』
ぞわりと悪寒が走る。
男の声はうっとりするような、興奮を抑えるような…何とも気味の悪いものだった。
そして、この声には覚えがある。
「…う…」
『ごめんね、外してあげよう。喋りたくても喋れないもんね。』
男は泰葉の後頭部で縛られた布を解き、口から外した。
泰葉の唾液で湿ったその布を、惚けた顔で見つめる。
その表情には嫌悪しか抱かない。
『あぁ…泰葉を今度こそ僕のものにできるんだね…。』
男はその布を自分の顔へと持っていく。
「や…め、て…」
それからの行動が予想できてしまい、その気色の悪さに泰葉は嫌々と首を振る。
男は泰葉の表情を愉しむように、その布を口に咥え奥歯でぐっと噛み締めた。
「…っ……」
祐「覚えているかい?僕のことを。前回は邪魔が入ったが、今回は大丈夫。邪魔なんて来やしない。」
祐一はしゃがんで泰葉の顎を掬い取る。
泰葉は、ぐっと嫌悪感で目が潤みそうなのを堪えて、できる限りの睨みを効かせた。
祐「そんな顔をしないで。そうだ、泰葉には特別にいいのを飲ませてあげよう。そうすると僕のことを、すーぐ好きになる。そして」
「僕しかいらなくなる。」
にこりと笑う祐一。
この男が何を考えているのか分からない。
だが、本能的にこの男に嫌悪感…憎悪…負の気持ちしかないのは確かだった。
「貴方達…何が目的なの?女性たちをどうする気なの?」
泰葉が尋ねると、祐一と男達は顔を見合わせる。
そして、何故か男達はゲラゲラと笑い始めた。
祐「あぁ、そうかそうか。君は綺麗なままだからね。この状況を見ても分からないんだ。」
『美人集めて、身包み剥ぎゃぁ大体分かんだろ!』
祐一は泰葉の身体をぐいっと起こす。
そして他の女性達の方に顔を向けさせた。