第9章 遊廓
朝。
『泰葉ちゃーん?
おはよう、起きてるー?』
泰葉のお隣の奥さんが
玄関先で声をかける。
不思議なことに玄関の鍵は開いていた。
しかし、泰葉の家からは物音がない。
毎日しっかり戸締りしているのにどうしたのかしら…
奥さんはそう思いつつ、
泰葉の家に入っていく。
『泰葉ちゃん?朝よ。
具合でも悪いのかしら?』
寝室の前に行くと襖が開いたまま。
布団はぐしゃぐしゃに乱れている。
これは…
『た、大変!あなた!あなた!』
奥さんは家を飛び出し、自宅にいる夫を呼んだ。
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お隣の奥さんは、毎朝庭の花に水をやるのが日課だ。
その時に泰葉は窓を開けて空気を入れ替える。
そして、顔を合わせて挨拶を交わす。
これが泰葉がこの家に来てからの
2人の流れだった。
泰葉は愛嬌があり、
いつも笑顔を絶やさない。
他人の悪口も言わない。
いい娘としか言いようがなかった。
こんな可愛らしい子が
どうして一人で住んでいるのかが不思議だったが、
事情があるのだろうと、聞いたりしなかった。
泰葉の話だと、親とは遠くにいるのでなかなか会えないが、手紙のやり取りは頻繁にあるようだ。
だから、親の代わりに自分たちが守ってあげたい。
そう思って、今まで気にかけてきた。
それなのに。
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奥さんは、夫にも話をして
泰葉の捜索が始まった。
そして、夫婦は街まで出向き、
夫は警官のところへ
奥さんは呉服屋へと向かった。
直感的に、着物を贈った煉獄家にも知らせた方が良いと思ったのだ。
『ごめんくださいまし!』
朝早くから戸を叩く女性に、何事かと驚く呉服屋。
奥さんが事情を話すと、呉服屋の旦那は
若旦那を呼び出し、煉獄家へ走らせた。