第66章 消失
『なんだよ、姉ちゃん。』
「暴力は良くありません。」
正直、この男達を怒らせたら何をされるか分からないという怖さはある。
だが、それよりも必死に店の女性を護ろうとする店長の勇気は素晴らしいものだ。
そんな彼に痛い思いをさせたくない。
男は睨みを効かせて泰葉を見るが、引かないこの女に苛立つどころか、興味を持ってしまった。
男は捨てるように店長を放し、その手を今度は泰葉の顎を掴む。
『威勢のいい姉ちゃんじゃねぇか。
ふん、気に入った。お前を迎えに来てやるよ。』
『おい、この女…よく見るとまぁまぁいい女じゃねえか。』
グッと顔を近づけられ、悪い男の悪臭が泰葉の鼻を掠める。
不愉快極まりなかった。
そして、ニヤリと笑い男はそのまま店を出て行った。
店「だ、大丈夫かい⁉︎」
店長は腰が引けているが、テーブルに捕まって何とか立ち上がる。
泰葉は男に捕まれた顎を摩る。
「はい…。ビックリしましたね…。」
普通女である泰葉は店長よりも腰が抜け、泣き出したっておかしくない。
しかし、不快そうに掴まれたところを気にしているだけ。
しっかりと立って、テーブルを消毒するかのように隅々まで拭き上げている姿に店長は開いた口が塞がらない。
店「怖く…なかったのかい?」
「怖かったですよ!…でも、所詮は人ですからね。」
そう言って泰葉はまた接客へと戻っていく。
客達に「大変だったな…」声をかけられながら、また働き出す泰葉がとても信じられなかった。
店(肝が据わっている…というか。)
店長は自分に情け無さを感じながら、厨房へと戻って行った。