第66章 消失
『おーぅ、やっぱりいい女探すには小洒落た店じゃねぇとなぁ。』
偶々出迎えた客は、不幸にも “柄の悪い" としか言いようのない男2人。
泰葉は内心がっかりと落ち込んだ。
(面倒そうな男達だわ…)
「2名様、こちらへご案内します。」
『だぁれが2名様だっつった?もう1人見えねぇのか?』
男がニヤニヤと言うので、一応確認するが誰もいない。
「申し訳ありません。もう一方は確認できないのですが…」
きっとこの後の言葉は決まっている。
しかし、客に対しては一連の流れを要されてしまう。
『だとよ。2人しかいねぇもんなぁ。』
ガハハと下品な笑いが店に響く。
他の客達も目を合わせない様にしていた。
「では、こちらへ。」
若干笑顔を引き攣らせた泰葉が席へと案内する。
この2人は騒ぎを起こさせない方がいい。
そう直感的に思った泰葉は、窓際の1番いい席へと通した。
「どうぞ。」
ドカッと座る2人。
正直、自分達の来る店ではないと気付いて帰ってくれないかと願った。
他の客も落ち着かないだろう。
すると、男は2人してテーブルに身を乗り出し、泰葉の顔を覗く。
『おい姉ちゃん、この店で1番の美人を連れて来い。』
「何を言っているんですか。」
思わずツッコミを入れたくなるのをグッと堪えて、笑顔を向ける。
「少々お待ちください。」
とりあえず店長に相談しよう。
そう思い、泰葉は厨房の方へ戻る。
泰葉と男達を見届けていたのは由梨恵。
(大丈夫かしら…、目をつけられないと良いのだけど。)
そして、もう2人。
『…宇髄。』
『あぁ…。』
それは学生に扮した杏寿郎と小説家に扮した天元だった。
杏「見たか?」
天「いや、ちゃんとは見ていねえ。」
杏「…そうか。彼女が泰葉さんに似てると思ったんだが…。」
天「……んっ?」
天元は杏寿郎の言葉に耳を疑う。
(今なんつった?泰葉?なんでここに泰葉?)