第66章 消失
お冷を準備していると、他のウェイトレスが騒めき出す。
何かと思ってみると、今入って来た男性客のことの様だ。
1人は肩ほどの黒髪で着流し姿。だが、身長が物凄くある。
もう1人は顔脇が長めの黒髪で、眼鏡をかけ学帽を被っており、こちらは道着で後ろには刀袋を背負っている。
(どちらも背が高いのね…。杏寿郎さんと宇髄さんくらいかしら…。背格好はよく似てる。)
でもまず髪の色が違う。
だからそこまで気にも留めなかった。
すると、案内を終えた由梨恵が興奮気味に戻ってくる。
由「ねぇ、ちょっととんでもなくいい男が来たわよ!
背の高い方は小説家なんですって、それとお弟子さん。学生なんだそうよ!」
小声でなんとか話しているが、気を緩めれば大音量で叫び出しそうだ。
「そ、そんなに?」
由「美丈夫ってああいうのを言うのね!特にね、目が綺麗なのよ!2人とも。
1人は赤みがかった目で、もう1人は赤と黄…って感じかしら。そこまでじっくりも見てないんだけどね!」
「赤と黄…?」
由梨恵の言葉にドキッと心臓が跳ねる。
「ね、中央が赤で周りが黄?目は大きい?眉は?」
急に食いつきが良くなった泰葉に由梨恵はたじろぐ。
人が変わってしまった様だ。
由「な、なに?たぶん…そうだったと思う。眉は見えなかった。帽子かぶってるから…。」
「千、千寿郎くんみたいじゃなかった⁉︎」
由「ん?あー、言われてみればそうかも!!」
由梨恵がピンときたように頷くと、泰葉はみるみる内に青ざめていく。
由「ん…?ぅえっ⁉︎もしかして…えっ?」
「たぶん…杏寿郎さんだと…思う。」
そしてもう1人は天元だ。
泰葉の中では、それが確定したのだがなんせ髪色も違ければ、服装もなんだかおかしい…。
由「とりあえず私が担当するから、泰葉は遠目に本当にそうか確認したら?」
「う、うん。」
お冷の乗ったお盆を持ち、由梨恵が男達の方へと向かう。
すると、またカランとドアの鐘がなった。
「いらっしゃいませ。」