第66章 消失
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由「さぁ、お客様が来るわよ!」
由梨恵が店の鍵を下ろすと、若い女性やカップル達がぞろぞろと入ってくる。
『いらっしゃいませ!』
由梨恵をはじめ、ウェイトレス達が次々に席へと通していった。
泰葉は埋まった席に水を運ぶのが最初の仕事だ。
「いらっしゃいませ。こちらお冷を失礼致します。
お決まりになりましたら、お呼びください。」
『ありがとう。』
泰葉は、この様な接客業は不慣れではあるが嫌いでは無い。
だから、女性やカップルへの対応はなんて事なくこなしていった。
由「大丈夫?」
「うん、今のところは。」
そう、今のところは。
開店同時に来る客は、最初からここに来ることが目的。
だから、客も女性が多く年齢層も若めであり、問題を起こす様な客はいない。
『アイスクリン2つ』
「ご一緒に温かい紅茶はいかがですか?冷えた体が温まりますよ。」
『じゃぁ、紅茶もいただこう。』
「かしこまりました。ありがとうございます。」
泰葉に笑顔を向けられれば、少し余計に注文を取られても悪い気はしない。
むしろ、寒くなって来たこの時期にアイスクリンは体が冷える。
『紅茶を勧めてくれてありがとう。お陰でガタガタ言わなくて済んだよ。』
客はそう微笑んで帰っていく。
少し、客足も減って落ち着いてきた頃、由梨恵が声をかける。
由「泰葉、なかなかやり手ねぇ。店長も喜んでいるわ。売り上げが上がるって。」
「ふふ。でも、紅茶を勧めるのはこの前由梨恵がそうしてくれたからよ。お陰で冷え切らずに済んだんだもの。」
由「やだ!それじゃ、私の売上ってことかしら。」
小声で笑い合っていると、カランとドアの鐘が鳴った。
由「あっ、お客さんだ…。」
由梨恵がいらっしゃいませ、と声をかけながら出迎える。
客は男性2人。
泰葉はお冷を準備する。