第65章 嘘
「奥様方、毎度のことながらお元気ね…。」
杏「あぁ!でも、心配だな…。
そこの菓子屋の女性も攫われたとなると…。」
仙崎という菓子屋は煉獄家から歩いて10分ほどしかない。
そこの距離でそんな事件があると…。
杏「今回の件は何故か働いている女性が狙いらしいな…。
泰葉さんが働く前でよかった…。しかし、注意してくれ。」
「う、うんっ。」
杏「もし落ち着かなかったら春からも考えないといけんな…。
日曜日の外出も…。」
そんな事を言っているもんだから…。
やはり日曜日の件を正直に言ったら完全に反対されてしまう。
由梨恵の頼み…
少し強引ではあったが、困っているには変わりない。
このまま見捨てるわけにはいかなかった。
「だ、大丈夫よ!働いてなければ攫われないんでしょ?
それに、もし攫われても私は戦えるわ!」
杏「うむ…。そうだな、確かに戦えるか。」
杏寿郎は顎に手を添えて、うむ…と考える。
早くこの話題から離さなくては…。
「でも、関わってるのが悪党だっていってたわね。
杏寿郎さんは正義感強いから、探しに行っちゃわないか心配だわ。」
泰葉は働く女性から悪党へと話題を変える。
杏寿郎はビクッと身体を震わせた。
「どんな悪党かは分からないけれど、危ないことに関わったりしたら嫌よ。」
泰葉の言葉が杏寿郎にグサグサと刺さる。
これは日曜に坂本和誓を退治しに行くなど言えない。
杏「あ、あぁ!大丈夫だ。一体どこの男なんだろうな!!」
前を見たまま、知らないふりをする。
今2人は自分のアラを出さないようにするのに必死。
互いがわざとらしいなどとは気づくことができなかった。
(杏寿郎さんに心配かけられないわ…!)
杏(泰葉さんに心配させたくない…!!)
2人の互いを気遣い、想う気持ちが招いた嘘。
これが後に2人に襲い来るとは…
微塵も思っていない。