第65章 嘘
『あぁ、そうそう。聞いてる?女性が誘拐される話。』
1人の奥様が泰葉と杏寿郎に話を振る。
「えぇ。街でいなくなってしまう人が増えてるって…。」
『それがね、街だけじゃなくなったんだよ。
その辺でも攫われた人がいるって。』
杏「む、そうなのですか?」
『ほら、仙崎って菓子屋があるだろ?そこの娘と女将が攫われたんだって。』
『まぁ、あの親子美人だものね。でも、攫われるのは美人で働き者なんでしょう?』
『何が目的なのかしらねぇ…?』
奥様方は皆頬に手を添えて、「ねぇ。」と首を傾げる。
「美人で、働き者…。」
杏「君はまだ働いていないからな…。今の今は大丈夫だろう。」
杏寿郎は泰葉の肩を抱く。
杏寿郎の中では、美人であるが働きに出ていないので条件を満たしていないと思っている。
しかし、泰葉はこれで完全に日曜の件を隠し通さねばならないと思った。
『泰葉ちゃんは、春から働くんだっけ?
それまでには落ち着いていると良いわねぇ。泰葉ちゃんなら1番に攫われちゃうわ。』
心配そうにそう言ってくれる。
泰葉はなんとも言えぬ気持ちで、苦笑いするしかなかった。
「は、ははっ。そんな事ないですよぉ。」
泰葉はこの話をずっとされていては堪らないと、そろそろ…と思った時、また別の奥様が話し始める。
(ま、まだ続くの⁉︎)
『でも、これには悪い奴が絡んでるって話よね?』
『そうそう、なんか暴力団?なに?とりあえず悪党よ。』
「悪党?」
これに今度は杏寿郎が冷や汗をかく。
『警官じゃ歯が立たないって話じゃない?』
『警官も何やってるのかしら。もう杏寿郎さんが行って退治してちょうだいよ。』
奥様は杏寿郎の腕をバシッと叩く。
杏「は、ははっ。警官でも歯が立たないのか!それはキツイな!!」
『大丈夫よ。杏寿郎さん強そうだし!!木刀持っていけば勝てるわよ!!』
それからも奥様方に揉みくちゃにされ、解放されたのは一時間も経った頃だった。