第65章 嘘
夜。
要に文を託す。
『先に籍を入れたい』
『結納の日程について』
『祝言は春にと思っている。』
この事を泰葉の両親に。
『祝言は春に、いつ頃が良いか』
この事をお館様に。
杏「ゆっくりで構わない。無理なく頼む。」
頷き夜空高くへと羽を羽ばたかせ、何度か旋回するとそのまますぐに姿を消した。
そして、どちらとも翌日の夕方には返事が届く。
『泰葉と杏寿郎さんへ。
籍を先に入れる件、了承致しました。
2人が決め、幸せなのなら構いません。』
とのことだった。
『なかなか会えない分、こういう細かい節目に同席できないのが心苦しいが、いつまでも親として見守っている』
そういった内容が書かれていた。
それを読んで泰葉は目にいっぱい涙を溜める。
杏「結納を済ませ、役所に届け出るまではまだ娘のままだ。
次に帰った時に、存分に甘えてくると良い。」
「うん。そうする。」
次に帰る時…
それは結納の時。
結納は早くて次の大安の時となった。
お館様からも、4月の中旬頃はどうだろうと提案された。
祝言までの段取りが見えてきた。
2人の気持ちが高まりだす。
杏「いよいよだな。」
「…はい。」
2人の笑顔は幸せそのもの。
これがずっと続いて欲しい。
いや、続くと思っていた。