第65章 嘘
翌日、泰葉と杏寿郎は槇寿郎に話をする。
槇「うむ。俺もその方が良いと思う。
泰葉さんもそれで良いのなら、早速段取りを取るとしよう。」
槇寿郎は頷き、壁にかかった暦を見る。
指をさして何かを逆算しているようだ。
槇「杏寿郎、ご両親には俺も文を書く。同封してくれ。
それから、お館様にも文を出そう。お庭の良き日を教えてくださるだろう。」
杏「分かりました。では、今日の夜に要を飛ばしますので、それまでに文をくだされば。」
槇「分かった。」
槇寿郎と杏寿郎が手配について話しているのを、ただただ聞いていた。
友人にも結婚した人は何人もいる。
皆口を揃えて「好きです、結婚しましょう」で終わらないと言っていた。
それを今、これのことかと実感している。
「急に慌ただしくしてしまい、申し訳ありません。」
泰葉は自分たちがもっと積極的に動かなければならなかったのではと、槇寿郎に頭を下げる。
それをキョトンとした表情で槇寿郎は見ていた。
槇「何も泰葉さんが悪いわけじゃない。一緒に暮らしているからな…。急ぐ必要もなかったんだ。」
槇寿郎は微笑み泰葉の肩にポンと手を乗せる。
その手は優しく、暖かかった。
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手配の話も終わり、2人は屋敷の外を散歩することにした。
紅葉も終わりかけた葉っぱたちがひらりひらりと舞い落ちる。
「紅葉って綺麗だけれど、期間が短いわね…。」
杏「桜もだな。…だがこの短く限られた時の中で魅せてくれるから、人は心奪われるのかもしれん。」
「んー、確かに。そうなのかも。」
そう話していると、近所の奥様方が円を描いて井戸端会議を開いていた。
この奥様方は杏寿郎が大好きだ。
その婚約者となる泰葉の事も可愛がってくれる。
『あら、杏寿郎さん。奥様とお散歩?』
『良いわねぇ、仲が良くって。』
『私にもあんな頃があったかしら…。』
若干いつも一方的ではあるが、悪い人たちではない。
今日も元気だな、と2人は笑みを浮かべた。