第65章 嘘
杏寿郎は大きく息を吐き、本題へと切り出した。
杏「泰葉さん、話なんだが…。」
「あ、うん。今後について…?」
杏「単刀直入に言うと、祝言は春が良いのではと思っている。」
「まぁ、桜の咲く頃?素敵ね。暖かくて良いんじゃないかしら。」
泰葉は嬉しそうに頷いている。
杏「それで何だが…、祝言の前に籍を入れてしまうのはどうだろうか…。」
「籍?」
杏「不死川と、冨岡が教えてくれた。すぐに祝言を上げずとも、籍を入れて、戸籍上夫婦となる人たちが増えているそうだ。
その…泰葉さんが良ければ、俺はそうしたい。」
杏寿郎は思っていることを伝える。
正直籍を入れようが入れまいが、杏寿郎自身の生活には支障はない。
しかし、泰葉の場合は西ノ宮が、戸籍上消されてしまうのだ…。
「…そう。そんな方法があったのね。」
杏寿郎の言葉を聞いて、静かに口を開く泰葉。
彼女の気持ちは、まだ表情からは読み取れない。
それでも、杏寿郎は泰葉の言葉を待った。
「きっと、杏寿郎さんは私が西ノ宮の名をどうしたいか…。それで悩んでくれているのよね。」
泰葉からは杏寿郎の心を読んだかのような言葉が出てくる。
「そうね、私が最後の西ノ宮。
…でもね、私そこまで悩んでいないのよ。
確かに最後だけれど…この運命はそうなるべくしてなったんだと思ってる。」
「この戦える力も、治癒できる力も…。
私で終わらせるべきだった。そして、私が女であることも、きっと西ノ宮が消滅するように…そういう意味があると思う。」
女性は嫁に行けば、元家からは出ることとなる。
だから、生き残ったのが女性の泰葉だということに意味があった…そう思っているのだ。
杏「…では。」
「はい。喜んで煉獄泰葉にしていただきたいと思います。」
そう言って微笑む泰葉に、杏寿郎は心から安堵した。
杏「では明日、父に報告して泰葉さんの両親にも文を出そう!」
杏寿郎と泰葉は手を取り合い微笑み合った。