第65章 嘘
〜杏寿郎視点〜
俺は泰葉さんに嘘をついた。
日曜日の件については何をどうするかは決まったのだ。
しかし、その日に泰葉さんも出かけるとなると…。
きっと坂本和誓と対峙するとなれば危険を伴う。
偶々泰葉さんに見られたら彼女はどう思うだろうか。
…それに、彼女が巻き込まれる場合だってある。
友人と街を歩くだけならば問題はない。
そう不死川達も言っていた。
働いている女性が狙いだ。
それよりも。
泰葉さんの様子がおかしい。
日曜日の予定を聞いたところから目が泳いでいる。
彼女は隠しているつもりだが…。
女学校時代の友人に会ったと言っていた。
その人は女学校に行っていたのだから女性だろう…。
その友人と出かけるのに後ろめたい事でもあるのか?
まさか…。
その出かけるのは複数人で、中には男もいるのではないだろうか。
…いや、そんな疑うような事はしてはいけない!!
彼女はそんなことをするような女性ではない!!
だが、どうしても気になった俺は、居間で茶を飲んでいる千寿郎に話を聞いた。
杏「千、今日は泰葉さんの友人に会ったのか?」
千「由梨恵さんのことですか?とても良い方でしたよ。パーラーで働いていらっしゃって、兄上の話も聞いているようでした。」
杏「なるほど。そうなのか!日曜日はその人と?」
千「はい。僕も詳しくは分からないですが、由梨恵さんとお出かけされるそうですよ。…でも、直接聞いてみては?」
首を傾げる千寿郎。
千の言っていることは尤もだ。
杏「いや、ちょっと気になっただけなんだ。泰葉さんの事になると、どうも狭量になってダメだな。」
俺がそう笑うと、その気持ちをわかってくれるのか千寿郎は優しい笑みを浮かべる。
千「大丈夫ですよ、兄上。」
弟に諭されるようになるとはな。
千寿郎もこの逢瀬で、一回り大人になって帰ってきたようだ。
杏「あぁ。ありがとう。」
まったく、弟に探りを入れるようでは…な。