第8章 金魚
すべての蕎麦屋ではないが、
2階を設けている蕎麦屋では
1階を普通に食事をする蕎麦屋。
2階を男女の営みを致す場所として
提供する店があった。
つまり、以前杏寿郎が女性に
「蕎麦屋に行ってもいい」
と言われたり、
泰葉が男に
「蕎麦屋に行こう」
と言われるのは
つまり、そういうこと。
杏寿郎は、同僚の天元から聞いていたので、
行ったことはないが、
どういうことかは把握していた。
…というか、あまりにも女性からの蕎麦屋の誘いを受け、まじめに蕎麦を食べに行こうとする杏寿郎を不憫に思い、意味を教え、ハッキリと断るように助言していた。
槇「泰葉さん、千寿郎のいる手前、訳を話す事はできないが、今後男に蕎麦屋へ誘われても、絶対に行ってはいけない。
絶対にだ。」
泰葉は槇寿郎の圧のある言い方に、何かあると理解し、頷いた。
「分かりました。絶対に行きません。」
槇寿郎と杏寿郎は心配で堪らなかった。
槇( 杏寿郎…泰葉さんをもう貰い受けてしまった方が良いのではないか⁉︎)
と、思って飲み込んだ父であった。
しばらくして、食事が運ばれてくると、テーブルの上はてんやわんやだった。
もちろん、ほとんど杏寿郎のものである。
泰葉の不思議な力と、しのぶからの薬で内臓の調子も良くなった杏寿郎は、朝から普通の食事を摂れるようになっていた。
杏「うまい!」
槇「杏寿郎、ここは外だ。静かにしなさい。
そして、お前の頼んだものを見るだけで胸焼けがしてくる…」
そんな会話を聞きながら、泰葉は煮魚定食をつつく。
「美味しい…」
頬を綻ばせる泰葉の顔を見て、周りの席の男たちは、箸やら湯呑みやらを、落とした。
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その後は少し街を散策し、別れの時間となった。
千「泰葉さん、本当にいつでも来てくださいね!」
「うん、千寿郎くんに会いに行くよ。」
杏「きっと俺はお館様との面会の時に会うのが先かも知れないな!」
槇「とりあえず、気をつけて帰りなさい。夜にはこの藤の香を焚くように。」
槇寿郎は泰葉の手に、藤の香を渡した。
「色々と、ありがとうございました。
またお会いできるのを楽しみにしています。」