第8章 金魚
「なんだか、女将さんに勘違いをされているようですね…。
ご迷惑をかけてすみません。」
杏「大丈夫だ!迷惑だとは思わないぞ!」
前を見据えたまま、答える杏寿郎。
「…杏寿郎さんの心が寛くて助かりました。」
…その会話を聞いて、槇寿郎は『がんばれ、息子よ!』と、心の中で応援した。
実の所、槇寿郎と瑠火もなかなか、気持ちが伝わらず、もどかしい時期もあったのだ。
今となっては愛しい思い出。
だから、息子にもその気持ちを分かってほしかった。
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昼食を摂ることにして
食事処へ入る4人。
泰葉の隣に千寿郎。
正面には槇寿郎、その隣に杏寿郎。
という席順で座る。
注文を済ませ、出されたお茶を啜っていると、杏寿郎が口を開いた。
杏「ところで、朝の男は何を言っていたんだ?」
「あぁ、あの方は最初は団子屋はどこかと言っていたのですが、途中で嘘だ、蕎麦屋に行こうと言っていました。」
それを聞いて、槇寿郎と杏寿郎はお茶をブッ!と、吹き出した。
「お団子じゃなくて、お蕎麦が食べたかったようです。
だいぶ系統が違いますけどね。」
と、笑いながらテーブルの上を拭いた。
槇「ま、まさか、君は他の男からも言われたりしていないだろうな⁉︎」
口を拭いながら、槇寿郎が慌てて問いかける。
泰葉は心当たりがあり、
「それを一度聞いてみたかったのですが、男性が女性を食事に誘うのは、蕎麦屋が定番なのですか?お食事をお誘いしてくれる方は、みんな蕎麦屋に行きたがるのです。」
ちょっとムッとしながら、そう話す泰葉。
千「泰葉さんは、お蕎麦が嫌いですか?」
純粋に尋ねる千寿郎。
「お蕎麦は好きよ。でも、決まってそういうものだから、なんだか食べたくなくなるの。」
杏「ちなみに、まさかとは思うが、その男達とは蕎麦屋には…」
「お蕎麦屋さんしか誘えない男性とは、話が合わなそうなので行っていません。」
泰葉の言葉にホッと肩を撫で下ろす、槇寿郎と杏寿郎。
しかし、はぁ…と頭を抱えた。