第64章 焦りと余裕
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「はぁ……すごかったわね…。」
千「は、はい。僕…まだドキドキしています。」
泰葉と千寿郎は食事処の席に座る。
興奮気味に、心臓が高鳴っているのを抑えるのに必死。
最初は戸惑いつつ入ったが、出てきてみれば
すれ違う人々が凄かったと感想を漏らすのにも頷ける。
「これは、すごい。刺激的だったわ…。」
千「…はい。」
はぁ、はぁと肩を上下させた。
『はい、お待たせしました。』
ふっくらとした女性店員が2人の前に天ぷら蕎麦を置く。
『あなた達大丈夫?2人して赤い顔して。』
「あ、はい。大丈夫です。」
はは、と笑いながら泰葉が答えると、女性はキョロキョロとしてコソッと2人に囁く。
『そう言う気持ちは蕎麦と一緒で冷めない内にってね。うちは蕎麦屋じゃないからアレだけど、向かいには2階があるから話しといてやろうか。』
・・・・・・・・・?
2人の思考が停止する。
そして、泰葉の頭の中で理解されていった。
この女性は自分達を恋人同士、尚且つ好きな気持ちが溢れて顔が赤いと思われている。
そして、向かいの蕎麦屋の2階…。
蕎麦屋の2階は…。
「あ、えと、結構です!こう見えて彼まだ13歳なので!!」
泰葉にしては珍しく、はっきり大きな声で断った。
その様子にびっくりしているのは千寿郎。
千寿郎は女性に言われたことは理解していない。
蕎麦屋の2階には何があるのか…。
しかし、この興奮冷めやらぬ状態で行けるもの…。
千「あ、あのっ!僕、蕎麦屋の2階に行けます!
この美味しいお蕎麦を食べた後でも、お蕎麦…食べられますっ!!」
急に大きな声で宣言する千寿郎にポカンとする泰葉と女性。
「せ、千寿郎くん?多分勘違いをしているわ。そんな事大きな声で言っちゃダメよ…。」
泰葉は慌てて小声で千寿郎を嗜める。
女性はくく…と笑いを堪えていた。
『おばさんが悪かったよ。坊や、2階には年齢的にも上がれないようだったね。
後5年もすれば分かるだろうさ。』
女性はそう言って水を注ぎ足し、他の接客へと戻って行った。
千「…わんこ蕎麦ではないですか?」