第64章 焦りと余裕
『ねぇ、また攫われたそうよ。』
『美人ばかり狙われるってやつ?』
『私も狙われたらどうしよう。』
『やだ、いくつだと思ってるのよ。』
『あら、美人だったら歳がいってようが、人妻だろうが関係ないみたいよ。』
そんな噂話が目立ち始めたのは、ここ1週間ほど。
男所帯の煉獄家にも、流石に耳に入ってきた。
杏「泰葉さん、気をつけてくれ。」
「大丈夫よ。美人しか狙われないんだから。」
千「だからです!!」
槇「何かあったらすぐに呼びなさい。」
そんな事を話したばかりだった。
杏「街で働く女性のみ…。ただ街を歩いているだけなら、狙われないのか?」
実「何故かはわからねぇが…そうみたいだな。」
まだこの案件については、働く女性以外の被害はない様子。
何を目的に攫って行くのだろうか…。
実「…で、この件に関与しているであろう男がいるわけだァ。
警官がその男に話を聞こうとしたところ、皆ボコボコにされたんだとよォ。」
義「治安の悪い話が絡んでいるから、お館様も最初は受けないでいたんだが、女性がその間も攫われているからな…。黙って見過ごせなくなったんだろう。」
お館様も優しい人だ。
鬼もいなくなった今、誰のことも危険に晒させたくない筈。
それなのに引き受け、実弥と義勇に頼むということは、相当なのだろう。
義「最初は俺たち2人だけで行こうと思ったんだが…。」
実「ちょっと数が多そうなんだよなァ。…ってなわけで」
杏「…俺にも行けというわけか!!」
実弥達の話はよく分かった。
…だが、問題なのは相手に身元を知られないようにしなくてはならない。
万が一、組織を立てる悪党ならば、その情報が家族や恋人にまでも被害が及ぶ。
実弥、特に杏寿郎は特徴的な髪。
うーん…と頭を悩ませた。
「そういう事なら、やっぱ俺だろ?」