第64章 焦りと余裕
そうして、活動写真を観て(観れるやつだったら)、それから昼食を食べ、街を歩いて甘味を食べて帰る。
そんな予定が立った。
街が近づくと、賑わいを見せる。
街も随分と活気付いて、毎回来る度に新しい建物を建てている。
人通りが増えてきたところで、千寿郎の握る手に力が入った。
千「…今日は、僕が泰葉さんをお護りしますからね。大切な泰葉さんに指一本触れさせません。」
真っ直ぐに前を見据え、自分に言い聞かせるかのように呟く千寿郎。
泰葉はその横顔に杏寿郎の面影を見つける。
それはとても頼もしく、千寿郎も男である事を思わせた。
泰葉はそんな力強い手を軽く握り返す。
「ありがとう。頼りにしてるわ。」
千寿郎にとっても、大好きな兄にとっても大切な泰葉。
他の男に触られる事も、怪我をさせるなどは以ての外。
いつも少し下がった眉は、いつもよりも上向きになっている気がする。
千寿郎は13歳と10以上も年は離れているが、煉獄家の男子。
背が高めだと思う。
槇寿郎、杏寿郎も高身長の為、並んでいると小柄に見えるが、実際泰葉と並べば身長も10㎝くらい大きい。
(いつも台所で並んでいるはずなのに、なんだか千寿郎くんが大きく感じる…。)
ドキドキなんてしない筈なのに。
いつもと違うように感じるのはこの環境のせいか。
自分から繋いだ手も、今更意識してしまう。
千「泰葉さん、どうかしました?」
「う、えっ…?大丈夫よ。何でもないわ。」
千「何かあったらすぐに言ってくださいね。」
そうにっこり微笑む千寿郎。
ずっと幼さの残る顔をしていると思っていたが、彼も成長期。
身長も伸びるし、顔つきも変わる。
「そういえば…手、大きくなったね。」
千「えっ、本当ですか?嬉しいです。父や兄のような手になりたくて。」
千寿郎は繋いでいない右手を広げて掌や甲をひらひらと眺める。
「千寿郎くんも大きく優しい手になるわ。いつか、好きな人の手を握るのね。」
千「…なら、もう握っていますね。」