第8章 金魚
杏「それが欲しいのか?」
千「はい。この金魚の家族が欲しいのです。」
そばには幾つか同じような金魚が置いてある。
その中から様々な大きさの金魚を選ぶ千寿郎。
千「これは父上、これは兄上。
これが千。これが母上です。」
それぞれ見合った大きさの金魚を選んだ。
千「そして、これが…」
と、千寿郎の金魚より少し小ぶりで、でも一番柄が鮮やかな金魚を手に取った。
千「これが、泰葉さんです。」
千寿朗は泰葉の手に金魚を乗せる。
千「あの日、ここでこの金魚を見ていました。
そしたら、泰葉さんが現れた。
この金魚が出会わせてくれたのです。」
「千寿郎くん…」
泰葉は胸が暖かくなった。
杏寿郎は千寿郎の頭を撫でた。
杏「そうだな!その金魚たちが泰葉さんの危機を教えてくれたのだろうな!」
槇「そうか、そうか!ならば迎えなければならないな!
ご主人、こちらの金魚をいただけるだろうか!」
泰葉は目を潤ませた。
なんて気持ちの暖かい家族なのだろうか。
感動していたのは、泰葉だけではなかった。
話を聞いていた呉服屋の夫婦も涙を流していた。
「なんて、素敵な話なんだ!
この金魚達も幸せだなぁ。
煉獄様、こちらは私たちから贈らせてください。
お代はいりません。
大切にしていただけたら、それだけで十分です。」
槇寿郎は、そんなわけには…と払おうとしたが、夫婦の計らいを受け取ることにした。
千寿郎は夫婦に頭を下げて、先程の一匹の金魚を渡す。
千「この金魚は、泰葉さんのお家に居させてください。
煉獄家の金魚と一緒です。
僕たちは、泰葉さんを待っていますので、
いつでも遊びにいらしてくださいね。」
「ありがとう、大切にするね。」
泰葉は千寿郎に抱きついた。
千寿郎は顔を赤くしたが、嬉しくて抱きしめ返す。
杏寿郎も、2人をまとめて抱きしめる。
槇寿郎はそれを目を細めて嬉しそうに見ていた。
呉服屋の夫婦は、これで何故祝言をあげないのか、不思議で仕方なかった。
4人は店を出る。
「白無垢も楽しみにしてるわよ〜」
と女将さんの声が聞こえる。
泰葉は苦笑しながら会釈をした。