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太陽の瞳 【鬼滅の刃】

第64章 焦りと余裕



泰葉が驚いた様な声を出したのは、口付けた場所にピリッと軽く痛みが混じったからである。
すぐに杏寿郎は、そこを親指でキュッとなぞった。


「杏寿郎…さん、一体何を?」

杏「ん…、すまない。痛んだか?」

「ちょっとだけ。…でも今のって。」


泰葉には今の痛みに心当たりがあった。

情事の時、杏寿郎が毎回残そうとする赤い花弁のような印。




杏「大丈夫だ…。いつもの様に消えてしまった。」



そうニコッと笑う杏寿郎。
しかし、彼は嘘をついた。


強く肌を吸い、いつもより色濃く付いたその印。
杏寿郎の唾液で消えてしまうより先に拭き取られた為、薄くはなったがちゃんと残っていた。

知る人が見れば、それが何の跡かは分かるほどに。




「もう、治癒能力が無かったら、私外を歩けないわよ。」


困った様に笑いながら、襟元を正す泰葉。

上から覗き込めば見えるその印に、杏寿郎の口角が上がった。







杏「用意は済んだか?そろそろ千に声をかけようか。」


杏寿郎はニヤけてしまうのをひた隠す為に、席を外す口実を探す。


「そうね、もう大丈夫。それじゃぁ、お願いしても?」

杏「承知した。」



杏寿郎は頷き、離れを出る。
千寿郎の元へと向かいながら、初めて印を残せたことに口元が緩んで仕方なかった。



ああすれば印は残せるのか。
これで他の男からも牽制が取れる。

千寿郎は気づくだろうか…。
まだ幼気な千は虫刺されと思うやもしれん。





そうして、はたと冷静になる。
弟は逢瀬と言葉を使ったものの、ただ楽しく出かけたいだけじゃないかと。
自分たちの関係を熟知しており、尚且つ幼さ残る千寿郎。



色事があるはずが無い。
泰葉も滅多に2人で出かけることがないから、楽しみにしていただけだと。



それなのに強く嫉妬し、印まで残して満足している。





杏「随分と狭量な男だな…。」


杏寿郎は自嘲する。



千寿郎に声をかけ、また泰葉の元に戻ると、もう部屋を出ようとしている泰葉がいた。



「あ、ありがと…んっ」


杏寿郎は部屋を出る前に、泰葉の手を取り引き寄せて口付ける。
その時、少しだけ唇を舐めとり後ろにつけた印を消した。



杏「存分に楽しんでおいで。」



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