第64章 焦りと余裕
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天「さぁ、どんどん食えよー!!」
天元の掛け声で始まった宴。
パチパチと爆ぜる火花に、魚たちはこんがりと焼かれていく。
槇「やっぱり、網で焼くのが1番か?」
天「…親父さん、やっぱ串でガツっと。」
槇「む。こ、こうか?」
皆舌鼓を打つ。
杏「うまい!!…ん、うまい!!うまい!!!」
ま「相変わらず元気のいい旦那だよなぁ。」
「でも、美味しいって伝えてくれるから、作り甲斐があります。」
(((惚れた弱み…って奴ね…!!)))
泰葉も自分で釣ったヤマメを食す。
フワッと漂う香ばしい良い香りに気分が高まった。
「あ、そうだ。千寿郎くん、私と一日何をする?」
自分の釣った魚、ということもあってか、いつもよりも魚が格別な味へと変わる。
そんないい気持ちのまま、隣に座る千寿郎に問いかけた。
優勝者には泰葉が貸し出される約束だ。
すると、泰葉のぽわぽわとした気持ちとは逆に、深妙な面持ちの千寿郎。
少しばかり険しい顔をしている。
「千寿郎くん?どうしたの?」
杏「…千?」
皆が視線を注ぐと、みるみるうちに赤くなる顔。
…どうした、発熱か?
全員がそう思った時、スッと千寿郎が泰葉の方に向き直る。
その只ならぬ様子に、泰葉も思わず千寿郎に体を向けた。
杏寿郎はいつもと様子が違うなと思いながらも、魚と一緒に焼いていたホクホクのさつま芋にカプッと食い付いた。
杏(きっと千の事だ。一緒に図鑑を見ようとか、本の内容について教えて欲しいとかそんな事だろう。)
可愛い弟だな。
可愛い妻と弟が並んで図鑑を見たり、学んでいる姿を想像するだけで心が和む。
千「泰葉さん!1日だけ、1日何でも願いを聞いてくださるのなら…」
千「ぼ、ぼぼ…僕とも…
————逢瀬をしてください!!!————」
杏「んぐっ⁉︎」
あまりの衝撃発言に杏寿郎は喉を詰まらせた。
槇寿郎をはじめ、周囲は目を丸くして千寿郎を見つめた。
泰葉は何が起きたのか理解するのに時間がかかる。
逢瀬⁉︎
千寿郎くんと⁉︎
色々頭が巡った挙句
「…はい…」
と返事をしていた。