第63章 勝負の時
杏寿郎が泰葉の肩をくいっと横に向かせると、3人の嫁たちは皆難しい顔で考え込んでいた。
雛「泰葉さんと一日…。」
須「はいっ!私、一日中泰葉さんに可愛い格好してもらいたいですぅ!着物とか、洋服とか…。
あ!私たちと同じ格好でお揃いとかっ!」
ま「ははっ!間違いなく、この格好はしないだろうね!
でも、やっぱり私はこの山の天辺からの景色を見せてあげたいなぁ…。」
雛「街に行くのもいいわね。いろんなもの買ってあげたくなっちゃう。」
泰葉を勝ち取った後を考えているのだろう。
「あ、あれ?…意外と…」
泰葉が拍子抜けしていると、杏寿郎がはぁ、と息をついた。
杏「奥方だけではない。意外と…なのは、こっちもだ。」
杏寿郎の声に視線を移すと、槇寿郎と千寿郎も、むむ…と眉間に皺を寄せる。
槇「釣りならば誰にでも勝ち目はある。
世の父親たちは、娘とどのように過ごしているのか。
娘と庭の剪定…、いや、他にもあるか…。」
千「泰葉さんと…。でもどうしましょう。
勉強を教えてもらって、買い物へ出掛けて、料理…あぁっ、これじゃいつもじゃないか…。」
ぶつぶつと小言が聞こえてくる限り、こちらも楽しみにしている様子である。
天「…な?泰葉が景品で、皆やる気に満ちてんだろ。」
天元がかかっと笑う。
そんな彼を杏寿郎は、いつもより少し鋭い眼差しで見据えた。
杏「して、宇髄が勝ったら、もちろん君が泰葉さんを一日中好きなようにできるんだろう?」
天「あったりめーだろ!なんで俺だけ何もなしなんだよ。」
杏「奥方達、父上、千が勝ったとして心配はないが、君が勝ったとしたら話は別だ!何をされるか分からん。
泰葉さんを景品にするのは、やっぱり取り止めるべき…」
杏寿郎が異議を唱えると、天元はあれあれ、とそれを遮る。