第62章 季節外れの春の訪れ
それからしのぶが聞いたのは治癒能力の話。
採血をしながら、問診が続く。
し「治癒能力はまだ残っているのね。」
「うん…大した傷は最近負ってはないんだけど、この間少し切っちゃったところは治ってたから…。」
先日、自室の本棚の本を整理している時、紙で指を切ってしまった。少しの出血があったが、その日杏寿郎と口付けた後には消えていた。
それに、杏寿郎が情事の時に泰葉の身体に花を咲かせようとするが、咲いては消え、咲いては消え…。
その時に杏寿郎は、ほんのちょっと残念そうな顔を見せるのだった。
「でも、いつ消えてしまうか…。消える時には何か変化があるかも分からない…。」
正直、不安である。
力だけだと思っているが、もしかしたら命も…と、たまに思うのだ。
し「煉獄さんにも話しておきますが、もしも何か変わったことがあれば、すぐに私を呼んでくださいね。」
「はい。ありがとう。」
泰葉の返事を聞いて、しのぶはパタンと問診票を閉じる。
し「これで今回の診察は以上です。
よかったら昼食を食べて行かない?みんな喜ぶから。」
しのぶがスッと立ち上がり、にっこりと声をかける。
気がつけば時計の針は12時を示していた。
「嬉しい!杏寿郎さんも喜ぶわ!」
しのぶと泰葉が診察室を出ると、随分と騒がしかった。
意外にも声を1番荒げていたのはアオイ。
腰に手を当て、誰かに向かって怒っている。
ア「いつも言ってますでしょう⁉︎どうして貴方は約束というものを破ってしまうんですか?」