第62章 季節外れの春の訪れ
し「でも。」
しのぶが泰葉の手を包んでにこりと笑う。
し「私の知る限りの人たちだけど、煉獄さんが惚れた相手が泰葉さんで良かった…そう祝福してる人ばかりなのよ。」
「正直、柱達も煉獄さんがあそこまで盲目になるとは思わなかった。…でも、そのおかげで絶対に死ぬわけにはいかない、そう変わったと思っているの。」
し「今こうしてあんなにも元気なのは、泰葉さんのおかげ。
…ありがとう。」
泰葉の右手の甲をトントンとして、しのぶの手は離れていく。
ほんのりとしたしのぶの温もりを手に感じながら、泰葉の心は暖かくなっていった。
し「さぁ、問診をしますよ。体調に変化は?」
「今のところ…ありません。」
し「服用しているお薬などは?」
「し、しのぶさんにいただいた…あのお薬しか。」
し「あら、まだ在庫はありますか?」
あの薬。
杏寿郎と恋仲になって間もない頃に貰った避妊薬。
「うん、まだ少し…」
し「ちなみにだけど…。
お子さんはお考えで?」
「え…あ、うん。」
根本的に子供を持つことを考えていない訳ではない。
まだ祝言前だから。
それだけだった。
この時代には、妊娠が先での結婚には理解を得るのは難しい。
だから、自分たちにとっても子供にとっても生きづらくならない様にと妊娠を避けている。
し「じゃぁ、もう少し処方しておきましょうね。
なるべく体に負担がかからない様に作ってありますが、薬ですから飲みすぎてもいけません。
必ず1日1錠まで。これを守ってくださいね。」
「はい。」