第62章 季節外れの春の訪れ
中庭の隅ではカナヲが洗濯物を干していた。
こちらに気づき、ペコリと会釈をするが、洗濯物は時間勝負。
とりあえず干してしまいたいのだろう。
…手伝った方が…
そう思って立ち上がろうとした時、隣にいた炭治郎がスクッと立ち上がった。
炭「カナヲ!手伝うよ!」
泰葉は、そうか、と腰を下ろす。
杏「心配は無用だったみたいだな。」
「えぇ。そうでした。」
バサバサと洗濯物を叩き、少し高いところには炭治郎が干す。
微笑み合う2人。
善逸は禰󠄀豆子に落ち葉で髪飾りを作っていた。
前髪のリボンのところに、花の形になった葉っぱが色めく。
「杏寿郎さん、春が近いですね。」
杏「ん…?今は秋だから、冬を越せば…」
「違いますよ。恋です、恋。」
そう言って彼らを見つめる泰葉の目はうっとりとしている。
杏「そういうことか!不甲斐なし。」
「恋は猫と一緒に春の季語にもなっているんですよ。」
杏「ほぅ。確かに…思い返せば数多くあるものは春の詩(うた)か。」
ふむ、と頷きながら思い出す杏寿郎。
蜜璃の技名にも恋猫という言葉が使われていたな…。
そして、彼の中で疑問が浮かび上がった。
杏「しかし、なぜ恋猫が春なのか…」
「あら、それは猫にとって恋の季節が春だからよ。」
杏「何、決まっているのか!」
驚く杏寿郎に泰葉はちょっぴり嬉しくなる。
物知りで大体の知識がある杏寿郎も知らないことがあったのだ。
少し泰葉は優位に立てた気がして、得意気に教える。
「猫は春に発情期を迎えるのが多いんです。だから、盛りのつく頃…春が恋の季節、というわけです。」
杏「泰葉さんは生き物にも詳しいのか!」
「そこまでではないですけどね。近所で飼っていた人がいたから。」
褒められて少し照れる泰葉がそう笑うと、杏寿郎がグッと腰に手を回し引き寄せる。