第62章 季節外れの春の訪れ
杏寿郎の言葉に、返す言葉が出なかった。
(そうか…アオイちゃん、久しぶりだもんね。)
嬉しそうに出迎えてくれたアオイの顔が思い出される。
アオイの気持ちに気づかなかったのと、杏寿郎が菓子に目が眩んだとばかり思っていたことに申し訳なくなった。
そんなしゅんとした気持ちが顔に出ていたのか、杏寿郎がまた頭を撫でた。
杏「彼女の気持ちを汲み取れなかったと気にしているか?気持ちの取りようは人それぞれ違うからな…。2人で補っていけば良いさ。」
「うん…。それと、杏寿郎さんがさつま芋のお菓子にしか目がいってないと思ってた…」
杏「よもや!それは、心外だな!!
だが、日頃がそうだからそう思われても仕方ないのだろう!!」
そうカラッと笑う杏寿郎の性格は清々しくて気持ちがいい。
そう思っていると、また違う声が聞こえて来た。
『あ!やっぱり!煉獄さんだ!!』
杏「む。この声は…」
声の先に視線をやると、市松模様の少年が手を振ってこちらに向かってくる。
杏「竈門少年!!」
炭「煉獄さん、泰葉さん!お久しぶりです!!」
「炭治郎くんも!元気だった?」
炭「はい!もうすっかり!!来週帰っても良いって事になったので、生家に一度戻ろうと思って。」
禰󠄀豆子も鬼化が解け、それからは人間の女の子として元気に過ごしている。
炭治郎も最後の最後で鬼と化されたが、強い精神力のお陰で戻ることができた。
その後遺症がないか心配されたため、炭治郎と禰󠄀豆子は蝶屋敷で経過観察となっていたのだ。
ちなみに、身寄りのない善逸と伊之助は炭治郎、禰󠄀豆子の意向で、一緒に暮らしたいと同じく蝶屋敷で過ごしていた。
「炭治郎くんの生家は…?」
炭「雲取山というところです。」
なんでも冬には雪深い山だそう。
これから秋も深まり冬になるが大丈夫なのだろうか。
「春になってからじゃダメなの?」
泰葉がそういうと、炭治郎は優しい表情の中にほんの少し哀しさを見せる。
炭「家族が待ってるんで…。」