第62章 季節外れの春の訪れ
翌日、杏寿郎と泰葉は蝶屋敷を訪れた。
蝶屋敷は徐々に一般の人も受け入れているが、大々的には広告などしていないので、知る人ぞ知る…感じとなっている。
まぁ、美人しかいない病院なんて、すぐに知れ渡り混み合ってしまうのだろう。
「悪いムシが付かないか心配だわ…。」
杏「悪いムシか!そのムシは随分と毒持ちの蝶に付いて不憫だな!!」
…そうか。
しのぶには毒があるから大丈夫か。
「いや、でも心配よ。寄って集られたら…」
ア「炎柱様、泰葉さん!」
前からアオイがかけてくる。
以前よりも少し纏う雰囲気が、やわらくなった気がする。
「アオイちゃん!久しぶりね。元気だった?」
ア「えぇ、変わりなく。お二人もお元気そうで。」
そう言って杏寿郎に頭を下げるアオイ。
杏「神崎少女、もう俺も一般人に変わりない。普通にしてくれ!」
ア「あ…は、はい…。」
杏寿郎にそう言われて難しい顔をする。
雲の上の存在だった柱に今日から一般と同じ扱いで…と言われても、そう簡単に切り替えられるものではない。
何となく、その気持ちが分かる泰葉は
「今まで通りでいいんじゃないかしら。アオイちゃんも癖になってるから。」
と、助け舟を出す。
杏「しかし、もう…」
それでも食い下がろうとする杏寿郎に、反論でも?と視線を向けると、それを察して杏寿郎は黙る。
杏「うむ!そのままで構わない!!」
その様子をアオイは目を丸くして見ていた。
(意外と尻に敷かれるタイプなのかしら…)
しのぶはまだ一般人の処置にあたっているとの事で、中庭で少し待つことにする。
ア「今お茶を淹れて来ますから!」
「お構いしなくて大丈夫よ。」
ア「いいえ!それに、美味しいさつまいものお菓子があるんです。」
杏「なに!では、遠慮なくいただこう!」
ア「はい!少々お待ちください。」
そう言ってアオイは茶を淹れに行った。
「もう、アオイちゃんも忙しいんだから…」
泰葉は杏寿郎がさつま芋の菓子が食べたいのだと思って、苦言を呈す。
しかし、杏寿郎はニコニコと笑い泰葉の頭を撫でる。
杏「さつま芋の菓子も惹かれるが、神崎少女は久しぶりに会った俺たちをもてなしたいんだろう。」