第61章 安堵
『それから、あの男性が連れて帰りました。全くできたお人です。』
「そうですか。…帰れたのなら、良かったです。」
どれだけ罵られようと、彼女には彼女の理由がある。
婚約中で他の男に目移りしていようものなら、大宮家から拒絶される可能性が高い。
もし、そうなれば彼女の実家でも恥晒しとなってもおかしくない。
ちゃんと謝って、すぐには無理かもしれないが、また1から彼女を受け入れて欲しい。
そう思った。
杏寿郎がきゅっ…と泰葉の肩を抱く。
まるで、気持ちを読み取った様だ。
杏「また来ます。…今度は父と弟も連れて。蕎麦を食べに。」
そう含みを持たせた様に言う杏寿郎。
泰葉の顔をチラッとみるものだから、昨夜…今朝のことを思い出し、赤面させた。
『えぇ。もちもん、お待ちしてます。』
高木屋の夫婦がにこりと笑い、杏寿郎と泰葉はその場を後にした。
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その1時間ほど後に…。
『ごめんくださいませ!!』
高木屋の戸を叩く音が響いた。
『はいはい。ごめんなさいね…うちは夕方からしか…』
そう言いながら女将が戸を開けると、そこに立つのは…
『あら、貴方達…』
大宮薬局の息子と、菜絵であった。
女将の顔を見るなり、2人は深々と頭を下げる。
『女将さん、お願いがございます!私を…叩き直していただけないでしょうかっ!!』
『…はい?』
菜絵の話によると、とりあえずは大宮家の両親に頭を下げ、許してもらったそうだ。
もう2度とこんな事がない様にと釘を刺されたが。
こんなにも心の広い婚約者と大宮家に、申し訳ないと改心した菜絵は、自分に喝を入れるべく女将に弟子入りしたいと、自ら志願したそうだ。
菜「女性として立派になりたいのです。そして、煉獄様と奥様に謝りたいのです。」
そう頭を下げる菜絵。
女将は少し困った顔をしたが、
『期限は1ヶ月。その間に叩き込むからね。
使い物にならなかったら、いつでも放り出す!いいですね?』
その言葉にパッと表情を明るくさせる菜絵。
菜「よろしくお願いします!」
この事実を泰葉達が知るのはもう少し先のお話。