第61章 安堵
『本当に良いんですの?」
杏「あぁ!一向に構わない!!」
高木屋の出入口前。
杏寿郎は溌剌と女将に告げる。
何が構わないのかというのは、2人が高木屋の代金を支払うと言うのだが、金額が色をつけるにも程があるというもの。
高木屋こそ、最初は代金など要らぬと言ったのだが、美味しい食事だけじゃなく、騒ぎを起こしてしまう様になり、2階に宿泊、最後には朝食と湯まで貰ってしまった。
これで一銭も払わずに、それじゃとも帰れるわけがないし、そんな真似したくもない。
高木屋の人の良さに、客からとしては金を落とすしか恩返しのしようがないのだ。
『だがしかし、これでは貰い過ぎだ。倍以上ある。』
杏「いや、そんなことはない!着物も買い取る!だから、きっと少ないくらいだろう…。申し訳ない。」
「本当に…。とても綺麗な着物でしたのに、私が汚してしまったから…。」
『いーやいや、そんなのは良くあることで!着物を入れてでも多いよ!』
高木屋の店主も首を振るが、それ以上に杏寿郎は一歩も引かない。
真っ直ぐに店主を見つめると、その圧に店側が、ぐ…とたじろぐ。
杏「今回は大変世話になった。2人の心遣いには感謝しかない。…だから、今回は受け取ってくれ!」
杏寿郎と、泰葉が頭を下げれば、高木屋側が漸く、そんなことされちゃ…と受け取った。
『奥様、私達があの格好をさせたせいで…ひどいことを言われてごめんなさいね。』
そういうのは、芸妓と遊女の中間的にはだけさせた着物の事。
それで菜絵には"アバズレ"と呼ばれてしまった。
あの後彼女はどうなったかというと、彼女は現代でいうマリッジブルー。
街で大きな薬局である大宮家に嫁ぐ事になり、不安を拗らせた様子。
もともと美人と評判だった彼女は、初めは大宮家という大きな家に嫁げて喜んでいたのだが、優しいのが取り柄の様な旦那に少々不満を感じたそうだ。
そんな時、街を歩く杏寿郎を見つけた。
上背もあり、端正な顔立ち。
道行く人が皆振り返る。
…そんな杏寿郎が欲しいと思った。
周りが煉獄様、煉獄の若旦那と呼ぶのを見て、煉獄という名字だと知った。
そして、杏寿郎と呼ばれていたのを耳にした彼女は、ずっと"きょうじゅうろう“だと思っていたのだった。