第60章 君を傷つけない為に ❇︎
泰葉は杏寿郎の手元を見て、目を丸くする。
杏寿郎の綺麗な手によって、上下に何度か扱かれているのは、先程まで自分のナカに入っていたもの。
それはまだ一度も吐精していない時のように、立派に上を向いていた。
「え…いや…あの…」
元より、杏寿郎が一度で終わるとは思っていない。
…が、いつもは少なくとも10分ほど休憩を挟む。
なのに、今日は今注ぎ込んだばかりだ。
杏「…付き合ってくれまいか?」
そう言って、また泰葉の上にのしかかってくる。
「あ…だめよ…、今、私っ」
そう言いつつも、杏寿郎の身体が割って入ってくれば、受け入れるように膝を開いていた。
またトサッと布団に身体を預ければ、甘い口付けを落とされる。
杏「もう慣らさなくとも入れるか?」
「ま、まって…!今達したばかりだから…」
「敏感になってるの」そう言うより先に、また涙を流し赤くなっている昂りの先が、泰葉の密口にクチュクチュと音を立てて擦り付けられる。
「あぁっ、んん…」
これだけでも声が抑えられず、身体が期待しているのが分かった。
杏寿郎の指先が人差し指と中指で歩くようにトトト…と腹から左の乳房まで移動してくる。
指先で曲面を辿り、また触って欲しいと訴える蕾に到達しようとした時…。
「!!!」
杏寿郎がガバッと覆い被さり、泰葉の口を手で塞ぐ。
杏「しっ…。声を出さないで…。」
「………」
杏寿郎が耳元でそう囁く。
泰葉は言われるまま、黙った。
杏「何か用だろうか!!!」
杏寿郎は上半身を軽く起こすと、目線だけ後ろに向けて問いかける。
『ひぇっ⁉︎いや、ひ、必要なものは…ごごございませんでしょうかっ⁉︎』
突然声をかけられ驚いたのだろう。
声が裏返ったりしながら、襖の向こうの人物は答える。
(…人⁉︎いつからいたのかしら⁉︎)
ここが蕎麦屋の2階だということを忘れて、振り返れば盛大に喘いでいたように思う。
声を聞かれてやいなかったか…と羞恥心が一気に襲う。
杏「店の人だろうか!…ならば、新しい敷布を頼む!」
今自分たちの横たわる布団には、愛液だの精液だのが付着して冷たい。
だから新しいのを杏寿郎は持ってきてもらうよう頼んだ。