第60章 君を傷つけない為に ❇︎
そんな手のどこが綺麗なのか。
「杏寿郎さんの手は、沢山の努力と沢山の救う力を持った手よ。」
「それだけじゃないわ。意外と手の甲はスベスベなのよ?爪も短く整えてあるし。」
そう言われると、杏寿郎はその事には思い当たる節があった。
杏「この秋からは乾燥するだろう?刀を握れなくなっては仕事にならんからな。胡蝶に軟膏を貰っていた。」
杏「よく効く軟膏でな。重宝するんだ。爪も、鍔を弾いた時に割れぬように短くしている。」
「じゃぁ、鬼殺隊の人たちは皆手が綺麗なのかしら。」
よく見てこなかった…と少し残念がる泰葉。
杏寿郎もあまり気にしてこなかった為、そこまでは把握していない。
杏「刀を扱うものは少なくとも爪は短いはずだ。
……さぁ、そろそろ俺の姫君をうんと優しくしたいのだが?」
そう首を傾げて、頬に添えていた手を少し離し、つつ…と指先で首筋、鎖骨へとなぞる。
「んん…っ」
杏「今日はうんと優しく、うんと甘やかすから、良いところがあったら言ってくれ。そこを可愛がろう…。」
ちゅ、ちゅ、と口付けを顔や首に落としながら、器用に帯を解いていくと、泰葉がイヤイヤと首を振る。
「そこだけなんて嫌だわ…。私の全部を可愛がってくれなきゃ…。」
思わず目を丸くする杏寿郎。
泰葉の顔は茹で蛸のように赤い。
しかし、恥じらいながらもこんなに大胆な発言をするとは…。
杏「よもや…少々我儘な姫君のようだ。
…しかし、姫君あってこのくらい言ってもらわねばな。
そんな姿も愛い。」
杏寿郎は自分の中に熱が高まっていくのが分かった。
はぁ…と、吐き出す息が熱い。
しかしそれはお互い様。
杏寿郎の首筋にかかる泰葉の息も熱い。
杏「そうだな…泰葉さんが褒めてくれるのであれば…。」
溶いた帯をパサリと広げ、既にはだけた着物の合わせに左手を入れ込む。
杏「俺が何故、手に気を遣っているかを教えねばな…。」