第60章 君を傷つけない為に ❇︎
キシッキシッと音を立てて階段を登ると、これまた綺麗な廊下が続く。
一部屋一部屋の襖には金粉が散りばめられており、縁を結ぶなどの縁起の良い意味合いを持つ七宝の柄が入っていた。
そして、一番奥の突き当たりに鶴と亀が描かれた襖がある。
一番奥の部屋…とはそこの事だろう。
その部屋に向かって歩き出そうとすると、泰葉が遠慮がちに口を開く。
「杏寿郎さん、私…歩けるから…。」
降ろしてくれ…ということだろう。
そんな泰葉にフッと柔らかい笑みを零す。
杏「そんなことを言ってくれるな。俺がこうしていたいんだ。」
キュッと抱きしめるようにすれば、泰葉は何も言わずに杏寿郎の胸元に頬を寄せる。
幾分、震えは止まってきたようだ。
スッと指先で豪華な襖を開ければ、暖かくされた室内の空気が2人を纏う。
ほんのり香が焚かれているのだろう。
花のような香りが心地よい。
「わぁ、綺麗なお部屋。」
少し広めの部屋の真ん中には布団が2組敷かれており、枕元にはちり紙、屑籠が用意されている。
ここまでは旅館のようなもてなし…とも言えるだろうが、ここが少し違うのは、その脇に漆塗りの箱が一つ。
杏寿郎は布団の上に泰葉をそっとおろす。
杏寿郎はその箱の中身が気になり、かぽ…と蓋を開ける。
そこに入っていたのは
『極楽浄土』
と書かれた小袋が一つ。
杏(よもや!)
杏寿郎はそっと蓋を閉めた。
すると、杏寿郎の背中あたりの着物がキュッと引かれる感覚がした。
「杏寿郎さん…あの…」
杏「ん?」
杏寿郎が背中の方に目をやると、俯きながら着物を掴んでいる泰葉。
「さっきは…ごめんなさい。」
ポツリと謝罪の言葉を口にする泰葉。
だが、杏寿郎には泰葉に謝られる覚えはない。
杏「む…ごめんとは?」