第59章 あなたは誰？

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この騒動はすぐに泰葉達にも伝えられた。


『女将、奥様っ！この部屋から出ないでください！』

店員が慌てた様子で部屋に入ってくるなりそう告げる。



『…来たのですね？』

『はいっ、今は大将と旦那様が対応しておりますが…』


2人の会話を泰葉は何のことだか分かっていない。



来た？
誰が？

杏寿郎さんが巻き込まれてる…。
危ない目に合っていたら…！！



「杏寿郎さんは何かに巻き込まれてるのですかっ？」

『いや…その…』


言葉を濁す店員。
修羅場です…なんて言えたものではないし、何て言って良いのか分からなかった。

しかし、それが泰葉の心を焦らせる。


泰葉は襖をパッと開けて飛び出した。


『あっ、お待ちなさいっ！』


女将に止められても、もう耳に入ってこなかった。
杏寿郎は大丈夫だろうか。
万が一怪我をしていたら…。



パタパタと部屋に向かう。
廊下には自分たちの部屋の前を囲うように人集りができていた。


「ちょっと、すみません。通していただけますか？」


泰葉が道を塞ぐ男性に声をかけると、男性が振り返る。


『おや。こんな可愛らしい娘がいるなんて知らなかったなぁ。お嬢さん、俺たちの部屋で酌してくれよ。』

『お、いいねぇ。あの修羅場が落ち着いたら来てもらおうぜ。』



にやにやとしながら、泰葉の肩を抱く男性。


「⁉︎えっ、いや…ちょっと！私先に進みたいんですっ！！」

『いいから、いいから。』


泰葉が男性の手を振り払おうとした時、肩から重みが消えた。
何だと思って顔を上げると、そこには男性の手を握っている女将の姿。


『大変申し訳ありませんが、こちらのお嬢さんは芸妓ではないのです。大切なお客様でいらっしゃいますので、お手はちょっと。』


にこりと綺麗な笑顔を見せられれば、男性も嫌な気にはならなかった。



『え、あぁ。そうかい、悪かったね。』


「す、すみません。ありがとうございます。」


泰葉が頭を下げると、女将はまたニコッと笑い大きく息を吸う。
すると、びっくりするくらいの大声を張り上げた。



『恐れ入りますが、道を開けていただけますでしょうか！』