第7章 満月
泰葉と千寿郎が、音のした方を見る。
そこには、いつの間にか身体を清め、着流しになった槇寿郎と杏寿郎がいた。
先程の音は杏寿郎の手から手ぬぐいが落ちた音だった。
杏「泰葉さん…が、千寿郎…と、とつ…ぐ…」
杏寿郎は固まったまま、故障した機械の様になっている。
槇「杏寿郎、落ち着きなさい。
今のは、言葉の綾だ。」
泰葉と千寿郎は慌てた。
千「あ、兄上!違いますよ!本当の意味ではありません!」
「そうですよ!杏寿郎さんのかわいい弟を取ったりしません!」
槇・千(…いや、多分そういう事じゃないと思う!!)
その後は何とか杏寿郎は持ち直すことができたそうな…。
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今日も、杏寿郎の「うまい!」が響き渡りながら、朝食が終わった。
片付けは千寿郎に任せ、泰葉は帰る準備をする。
杏「明日、また共に出かけるのだから、今日まで泊まっていけば良いのに。」
客間の襖に寄りかかりながら、杏寿郎は言った。
「いえ、まさか人様のお宅に泊まるとも思っていなかったので、家のことも、そのままにしてきてしまいました。
なので一度帰らないと…」
そう言いながら、準備をする。
…と言っても、使った部屋の整理くらいなのだが。
「さて。そろそろ戻ろうと思います。」
泰葉が立ち上がると、杏寿郎はなんとも言えない表情をしていた。
杏( 正直、帰ってほしくないと思っている自分がいるな…。
世話になって、甘えが出てしまったのか…?不甲斐なし!)
その杏寿郎の表情を疑問に思いながら、泰葉は玄関へと向かった。
槇寿郎、杏寿郎、千寿郎が玄関に並んだ。
本当に大、中、小である。
「では、大変お世話になりました。
…また、明日?ですね。」
明日、街へ行く約束だ。
だから、別れてもすぐ会う事になる。
しかし千寿郎はなぜか泣きそうだ。
千「う…泰葉さん、もっといて欲しかったのに…」
槇「千、明日会えるぞ。」
杏「やはり送っていった方が!」
そういう杏寿郎を泰葉は制した。
「お気持ちは嬉しいですが、まだ朝も早い時間。
鬼も出ませんし、大丈夫です!」
杏「しかし、以前の様に男に絡まれたら…!」