第59章 あなたは誰?
千寿郎が、槇寿郎の横に座り席を空けたので、遠慮がちに巧はその席に座る。
槇「俺は煮魚定食をもらおう。」
千「僕は天丼がいいです。」
巧「ぼ、僕は天ぷら蕎麦で…!」
イ「煮魚と…天丼、天ぷら蕎麦…と。少々お待ちください。」
勢いで注文をしたものの…。
巧は目の前の2人を交互に見比べる。
巧(噂には炎柱そっくりだとは聞いていたが…ここまでとは思っていなかった…。)
槇寿郎と千寿郎は巧が今何を考えているかは、だいたい予想がつく。
煉獄家が揃うと、大抵の人は見比べたりして観察するのだ。
初めこそは嫌だったが、代々こうである。
流石になれてしまうものだ。
槇「…こほん。桐谷くん…だったか。杏寿郎とは仲が良かったのか?」
槇寿郎が咳払いを一つして、巧に問いかける。
すると、慌てて答え出した。
巧「な、仲が良かっただなんて!滅相もございません!」
ぶんぶんと首を振る巧。
自分は階級は甲ではあったが、柱はまたその雲の上の存在。
そんな柱、ましてや人気の高い炎柱と仲が良かっただなんて…。
そう思いながらも、杏寿郎の人柄を思い出す。
巧「私は、炎柱が無限列車に乗り込む前日まで、ご一緒させていただいておりました。人を助けたいという強い心、迅速な対応、判断力、仲間を想う気持ち…。あの任務にご一緒できて、本当に良かったと思っております。」
槇「…そうか。そう思ってくれて、ありがとう。」
自分の知らない、息子の鬼殺隊、柱としての評価にふと口元が綻ぶ。
それを隠すかのように、槇寿郎はお茶を啜る。
巧「本当は、自分も無限列車に乗り込んでお供したかったのですが…。ここからは1人で行くと仰られたので…。」
巧は膝の上で握られた拳に力を入れる。
巧「それに40名以上の隊士がやられているとのことだったので、これ以上犠牲を出したくなかったのでしょう。」
なんとも杏寿郎らしい。
そう思う槇寿郎と千寿郎。
千「兄上らしいですね。その様子が目に浮かびます。」
巧「でも、後に出たのは下弦の壱と、更には上弦の参までと聞き、どうして無理にでもついていかなかったのかと後悔しました。」
巧の顔を見て、槇寿郎と千寿郎は眉を下げる。