第59章 あなたは誰?
槇「イトは変わりないのか?」
槇寿郎が呼ぶ、イト、というのがこの女性の名前。
槇寿郎が問いかけると、イトは少しムスくれたような顔をする。
イ『7年程経ってるのよ?変わらないわけないでしょう!』
『貴方が私を娶ってくれないから、私だって結婚しちゃったわよ!子供も2人。』
ブフッ…!!
お茶を吹き出す大小2人。
槇「ば、よさないか!息子の前でっ。」
千「す、すみません。拭くものを…」
イ『…何で吹き出すのよ。』
前掛けのポケットから布巾を取り出し、テーブルの上を拭く。
槇「まだそんな冗談を言って…」
イ『あら…誰が冗談だと…』
ガラガラッ…!!!
『炎柱!!!』
勢いよく店の扉が開き、店内に声が響き渡る。
幸い、少し早めに入店していた為、あまり人はいなかったが、皆驚いて入口に目を向けた。
注目を集めたのはある青年。
秋らしい狐色の着物に紺の袴。
青紫の羽織を着た黒色の短髪の彼は、パッと表情を明るくさせ槇寿郎達の方へと向かってきた。
『あぁ!炎柱、お久しゅうご…ざい…ます?』
だんだんと尻窄みになる戸惑った声。
それもそのはずだろう。
今この青年を見上げているのは、自分の思っていた人物と似て非なる人。
こちらも少し戸惑ったように青年を見上げる。
『え…ん…ばし…ら…?』
青年の口から困惑の声が漏れる。
今この青年の頭の中ではどれだけの事がぐるぐると回っているのだろうか。
それを悟った槇寿郎は、ふぅ…と息を吐き、口を開いた。
槇「君は杏寿郎の知り合いか?」
そう言われた青年は、漸く事の状況が読めてきた。
『はっ!申し訳ありません!私(わたくし)、元鬼殺隊士の桐谷巧と申します!』
桐谷巧と名乗る青年は深々と頭を下げる。
槇寿郎はその勢いに何度か瞬きをし、頭を上げるように促した。
槇「すまないな、今杏寿郎は一緒じゃないんだ。」
巧「いえ!通り道に遠くでお姿を見つけ、あの髪は…と勝手についてきてしまっただけなので。まさか先代と弟君(おとうとぎみ)に会えるとは思っても…。」
槇「…そうか。ところで君も一緒にどうだ。夕飯がまだなら座るといい。」
千「では、こちらをどうぞ!」
巧「えぇえっ!!」