第59章 あなたは誰?
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ガラガラ…
『いらっしゃいませ…って、あら!』
ここは富田屋。
今日の外食先である。
愛想良く出迎える女性が驚いた顔をした。
槇「…久しいな。」
『本当に!いつぶり?…え、もしかして…千ちゃん?』
千ちゃん…と呼ばれた千寿郎は、ピクッと肩を跳ねさせる。
千「は、初めまして。千寿郎と申します。」
ペコリと頭を下げる千寿郎。
『ふふ。礼儀正しいのね。…さ、空いてるところに座って。お茶を持ってくるわね。』
女性はそう言って、お茶を淹れに奥へと向かった。
槇寿郎は言われた通り、店の端の方に座る。
千寿郎も、その向かいに座った。
千(あの女性と父上はお知り合いなのかな?親し気だった…。)
千寿郎が、ここにくるのは初めて。
そして千寿郎の知る限り、槇寿郎が外食に出かける姿は見たことがない。
立ち直り、杏寿郎や泰葉と一緒に出かけた時は違う店だった。
千(…そして、僕のことも知っていた。)
槇寿郎を見ると、ぐるっと店を見渡している。
その表情は、懐かしさを感じているように見える。
千「…ち…」
『はい、お茶をどうぞ。』
千寿郎が槇寿郎に声をかけようとした時、先程の女性がお茶をコトンと2人の前に置く。
歳は三十前半から半ば…といったところか。
泰葉に比べたら上背のある感じだ。
愛想が良くて、直ぐに気を許してしまう雰囲気がある。
千(甘露寺さん…と同じくらいでしょうか。)
ありがとうございます、と茶を啜りながら、千寿郎は女性を観察する。
『最後に来てくれたのは7年前くらい?』
槇「まぁ…そのくらいか。君と会ったのも瑠火の葬式以来だな。」
千(…母上の葬儀にもいらしてたのか…。)
その千寿郎の視線に気付いた女性が、千寿郎を見てクスッと笑う。
『誰だこの人?って感じよね。』
『お父さんは鬼殺隊にいた頃、ここによく来てくれてね。お母様と、杏寿郎くん、千寿郎もおくるみに包(くる)まって来たことがあるのよ。』
千「ぼ、僕もですか⁉︎」
まさか、自分も抱かれて来ていたとは。
だから自分を知っていたのか…。と納得した。