第58章 逢瀬
杏「俺も飲んでみたい…!」
見ればキラキラした瞳で待っている杏寿郎。
「ふふ、そうでしたね。独り占めしてごめんね。」
泰葉はストローに紅がついてしまっていたので飲み口を紙で拭こうとした。
すると、その手を杏寿郎は止める。
杏「そのままでいい。」
「でも、紅がついてるから…」
杏「そのままがいい。」
そのままがいい…。
それは何を意味しているのか。
杏寿郎は、構わず泰葉の手元からクリームソーダを自分のところへと寄せる。
そして、ストローについた泰葉の紅の跡に合わせるように、飲み口を咥える。
「きょ…寿郎さん…」
チラリと泰葉を除き見れば、真っ赤になって驚いている。
杏寿郎は少し口角を上げ、ちゅ…と吸い上げる。
口入る液体は甘い味に似合わず、予想よりも強い刺激を連れてきた。
これは、泰葉が声を上げるのも頷ける。
杏寿郎は声さえ出さないものの、今度は間違いなく前髪が少し逆立った。
杏「…たしかに、痛いな!だが、美味い!」
嬉しそうにそう言う杏寿郎の顔を見れば、その唇にはほんのりと紅が付いていた。
「杏寿郎さん、紅が…。」
頬を染めた泰葉が紙を差し出す。
杏寿郎はそれを受け取ったものの、そっと手元の脇に置いた。
杏「拭いてしまっては勿体無いだろう?」
杏寿郎が少し目を細めて、紙を差し出した泰葉の手を握る。
杏「ここに泰葉さんの紅が付いた。それは間接的に口付けをしたのと…同じじゃないか?」
握った泰葉の手を、杏寿郎の唇へと持っていき、人差し指の先で紅が付いた場所をついっと撫でさせる。
「…っ」
こんな甘い仕草をどこで覚えてくるのか。
本当は何人もの女性を相手取ってきたのではないかと、疑いたくなってしまう。
杏「本当は、ここが2人きりならこの舌先に残る刺激も、君の柔らかい舌で治してもらいたいものだが…。」
杏寿郎の舌がちろっとその指先に触れる。
もう、これは…
「杏寿郎さん、降参です…。」
泰葉は白旗をあげる。
顔やら頭からはプシュー…と湯気が出ているんじゃないだろうか。