第58章 逢瀬
泰葉の口に一口アイスクリンが溶け込めば、そのクリッとした黒い瞳が、さらにまたまん丸に輝きだす。
「…!!!」
「杏寿郎さん、おいしいっ!!」
思わず杏寿郎のように小声で叫ぶ。
冷たくて、とろりと溶ける。
氷菓子のように氷の粒は感じられず、スッとなくなっていく。
甘く蕩ける口当たりに、その後はうっとりと目を細めた。
杏寿郎は目の前で繰り広げられる泰葉の百面相に思わず見惚れる。
杏(愛い!!!!やはり連れてきて良かった!!!!)
杏寿郎は心の中でガッツポーズを決め、自分もアイスクリンを口へと運ぶ。
杏「甘くて美味いな!パンケーキとやらも食べるといい!」
「蜜璃ちゃんと作ったの、思い出すなぁ…。」
蜜璃とのお菓子作り。
楽しかった記憶を思い出す。
(あのパンケーキ、結局全部食べたのかな?)
杏「ん?あぁ、俺たちが行き違いになった日のことか?」
「行き違い?」
杏「あのさつまいもの洋菓子を持ってきてくれた時だろう?ひらひらのついた洋装で。」
確かあの日は、蜜璃にお揃いでとエプロンを借りた。
フリルがついて可愛かった。
「そう、杏寿郎さんの具合が悪いって千寿郎くんから手紙が来て。」
泰葉の話す内容に心当たりがなかった杏寿郎。
そして、千寿郎が様子のおかしい兄を思ってのことだと気づいた。
杏「よもや、そういう事か。」
くくっと笑う杏寿郎。
もうこの関係となった今、本当のことを話しても良いだろうか。
杏「悪いが、俺は鬼殺隊に入ってから日常生活で具合が悪くなったことは無い。」
「え…でも」
杏「それは…俺が泰葉さんに会えず、気落ちしていたからだろう。君に一目惚れをしてから無意識に求めていたからな。」
しばらく会えない日が続き、杏寿郎は泰葉に会いたいからと、あの日は蝶屋敷に会いに行ったが、ちょうど泰葉は暇をもらっていて会えず、蜜璃のところにいると教えられ、会いに行ったが会えずだった事を話した。
「それで、不憫に思った千寿郎くんが私を呼び出したのね。」
杏「そういうことだ。それなのに、帰ったら泰葉さんは出かけていないときた。」
「柘榴のゼリーを買いに行ってたからね。でも、美味しかったでしょ?」
杏「あぁ、美味かった!」