第58章 逢瀬
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『お待たせしました。まず、パンケーキです。』
コトッとテーブルの真ん中に置かれたパンケーキ。
まんまるでふかふかの生地が3枚積み重なり、一番上には四角いバターがちょんと鎮座している。
別掛けの蜂蜜の入った入れ物が、脇に置かれ甘く幸せな香りに包まれた。
『こちらはアイスクリンです。』
杏「む。ここに頼む。」
杏寿郎の目の前に置かれたアイスクリン。
白く丸い見た目。
ガラスの器に2つ少し重ねられて綺麗だ。
その白い丘の頂上には赤いさくらんぼのシロップ漬け。
『クリームソーダです。』
泰葉の前に置かれた少し丸みの帯びた背の高いグラス。
緑色のソーダ水の上に乗ったアイスクリン。
ぷくぷくとソーダ水から気泡が上がる。
見た目も綺麗で、アイスクリンの脇にはこちらにもシロップ漬けのさくらんぼが飾られていた。
「わぁ…」
思わず静かな歓声をあげる。
ウェイトレスが今度はニコッと泰葉にも微笑み、「ごゆっくりどうぞ。」と会釈していった。
杏「これがアイスクリンか!!甘露寺の話だと氷菓子に近いから早く食べないと溶けてしまうそうだ。」
そう話しながら、杏寿郎がひと匙掬い、口へと運ぶ。
杏「ん!!」
途端にぴゃっと上がる眉。
大きく目も見開かれ、心なしか前髪が逆立ったような…。
杏「う…!!!」
これは盛大な「うまい!!!!」が来るのだろうと、少し身構える泰葉。
しかし、杏寿郎は学んでいた。
このようなお洒落店では、大声は似合わないということを。
杏「うまい…!!冷たくて甘いぞ!!」
気迫はそのままに、小声でそう言う杏寿郎。
しかし、はしゃぎ方は好きなオヤツを出された時の子供のようだ。
思わず、泰葉はクスッと笑う。
杏「なぜ笑う⁉︎」
「いや、だって…。いきなり小声で。」
今度はククク…と泰葉が笑う。
杏「君だって食べればこの気持ちは分かるはずだ!」
杏寿郎はちょっと頬を染めながら、泰葉もソーダ水に乗ったアイスクリンを食べてみろと促す。
「ん、いただきます。」
泰葉は長めの匙でひと掬い。
ドキドキしながら口へと運んだ。