第58章 逢瀬
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杏「うむ…。甘露寺が言っていたのはここだろう!」
「うわぁ!おしゃれなお店!」
甘味処と言っていたが、所謂パーラーである。
西洋の建物でお洒落な洋装のウェイトレスが、料理などを運んでいた。
杏「少し待つようだが…大丈夫か?」
「えぇ!全く問題ないわ。このくらい平気よ!」
そう。待つと言っても泰葉達の前にいるのは3組しかいない。
こんなくらい、いつも見かける長蛇の列に比べれば、幸運でしかない。
『ねぇ。何食べる?』
『そうだなぁ…アイスクリンはやっぱり食べてみたいよな。』
『私はクリームソーダが飲みたいわ。あのソーダ水がしゅわしゅわってしてて美味しいの。』
前に並んでいる恋人達は、これから店内で選ぶであろうメニューを想像している。
泰葉と杏寿郎にとっては初めてのものなので、どんなものか分からない。
頭の中で想像すると、とても美味しそうではあったが、しゅわしゅわの感覚だけがどうしても分からなかった。
「…杏寿郎さん。」
杏「なんだ?」
「私、流行りのものが分からなすぎて、少し怖いわ…!」
杏「うむ。…俺もだ!」
蜜璃からの情報もアイスクリンしかない。
…というか、彼女の場合は店のメニューを一通り食べ尽くしているから、全て美味しかった!と、絞ることができなかったのだ。
すると、いつの間にか順番が回ってきた。
『御二方でいらっしゃいますね。
今ちょうど窓際の席が空きましたので、ご案内します。』
可愛らしい女性が、にこりと微笑み泰葉達を案内する。
彼女が耳まで赤いのは、杏寿郎のせいだろう。
中に入ると、大半を占めるのは自分達と同じように、逢瀬を楽しむ若者達。
それから若い女性。
男性のみでくるには、少し勇気がいるだろう。
ここに蜜璃と一緒と言えど、小芭内もいたのかと思うと、少し面白い。
しかし、店員さんは可愛らしい女の子ばかり。
これは顔の審査も入ってるな…。と泰葉はキョロキョロとみていた。
『此方のお席、どうぞ。』
そう言われて座った席は街行く人々がよく見える場所だった。
この店ではきっと良い席と言えるだろう。