第58章 逢瀬
杏「要が来たという事は…」
要がきた方向を見ると、間違いなくずっと心待ちにしていた愛しい人の姿。
俺の贈った着物を身につけ、とても可愛らしい。
杏「泰葉さん!!」
俺が手を振ると、笑顔を見せてこちらに向かってきてくれる。
そんな姿も愛らしいのだが、待ってもいられず俺からも駆け寄った。
「お待たせしまし…わっ!」
泰葉さんの言葉が終わらないうちに抱きしめると、少し苦しそうな声が聞こえる。
でも、俺には泰葉さんを感じたい…その気持ちが強く放したくなかった。
「もう少しだけ…」
そう頼むと、泰葉さんも受け入れてくれて、そのまま心地良い空気が俺たちを纏っているのが分かった。
しばらくして体を離すと、泰葉さんの髪に見覚えのある飾りがついている。
髪が短くなって付けられなくなってしまったと言っていたが。
咲子さんが手直ししてくれたのだろうか。
そう思っていると視線がかち合う。
この綺麗な瞳に自分が映っていることが、こんなに嬉しいことだとは。
今は俺だけを見ている。
そう思うだけで幸せに感じた。
だんだんと近くなる距離…。
ここは街中だが、逢瀬なのだ。
軽い口付けくらい許してもらいたい。
それに…
泰葉さんも心なしか、待っているよう…
「先程の女性は?」
…む?