第7章 満月
「でも、あの日私は両親の元へ帰るつもりでした。
母が持ってきた見合いの話をしに…」
杏「み…見合い…⁈」
「17の頃から見合いの話はされていました。
でも、私が断り続けていて…」
この時代、17や18で女性は見合いを始めることが多い。
蜜璃もそんな事を言っていた。
そして20歳前後で嫁の貰い手が決まる…これが、一般的な流れだろう。
「そろそろ、両親を安心させなくてはならないのかな…と思ったので、どういう流れになってもいい様に、仕事は一度辞めました。」
仕事も辞めた…ということは、今回の相手と一緒になったとしても良いように…という事だろう。
今回はこのような事になったが、その相手とは後日会ったりするのだろうか…
杏寿郎は気になって仕方がない。
杏「その、今回はこんな事になったのだが…
見合いの話は…」
泰葉は首を振った。
「今回のは無くなりました。母に手紙を出したら、色々が落ち着いたら顔を見せなさい、って。
それまでは見合いの話もしない、生きていてくれただけ良かったとありました。」
杏「そ、そうか…」
杏寿郎はその話を聞いてほっとした。
(ん…?ほっとした…?)
すると、湯浴みを終えた槇寿郎が声をかけた。
槇「こんなところで長話をしたら、泰葉さんが湯冷めしてしまうだろう。
杏寿郎、千寿郎も待っている。
入ってきなさい。」
槇寿郎は泰葉に視線を移し、
槇「今日は本当に世話になったな。
暖かくして今日は寝なさい。話はまたできる。」
そう微笑んだ。
杏「む!長話をするつもりはなかったが!
泰葉さんは冷えてしまったか⁉︎
気遣いも出来ず、すまなかった!」
…では、風呂に入ってくる!と、立ち上がってその場を去った。
槇「杏寿郎も、あんな顔ができるようになっていたのだな…。
泰葉さんは、我が家の引き出しを沢山引き出してくれるな!」
泰葉は、何のこと?
と、キョトンとした。
槇寿郎は泰葉の頭をポンポンとして、
「おやすみ」と声をかけて自室に入っていった。
「お、おやすみなさい」
届いたかわからないが、挨拶をして
泰葉も部屋に戻り、布団へと潜った。
ふかふかの布団は気持ちよく、すぐに眠りに落ちた。